A requiem to give to you
- 破滅の未来とフォミクリー(4/6) -



それに、これはまだ始まりに過ぎないのだ。



「聖なる焔の預言には続きがある。…………マルクトとの和平の証としてキムラスカから親善大使を派遣したよな」

「そうだな」



今回の旅はまさにそれが目的だった。



「しかし街は滅びてしまった。お前達は現状を知っているが、第三者から見たらマルクトの陰謀によりキムラスカの重鎮達をアクゼリュスごと滅ぼしたと考えるのが普通だとしよう」

「………まさか」



その先を察したグレイは苦虫を噛み潰したように顔を顰め、タリスもハッとして顔を上げた。



「キムラスカは王女と王位継承権を持つルークを失った報復として、マルクトに戦争を仕掛けるだろうな」

「それも秘預言なの?」



タリスの問いにトゥナロは頷いた。



「───『ND2018。ローレライの力を継ぐ若者、人々を引き連れ鉱山の街へ向かう。そこで若者は力を災いとし、キムラスカの武器となって街と共に消滅す。しかる後にルグニカの大地は戦乱に包まれ、マルクトは領土を失うだろう。結果、キムラスカ・ランバルディアは栄え、それが未曾有の繁栄の第一歩となる』」

「それは……」



以前トゥナロに伝えられていた、またバチカルの城の地下でヴァンがルークに話していた内容と同じだった事をタリスは思い出した。しかしそれよりも更に続いていた内容に胃が煮え繰り返りそうな怒りをも覚えた。そして同じくヴァンより内容を聞いて知っていたグレイも呆れたように言った。



「マルクトとの戦争はキムラスカにとって繁栄のチャンスだ。預言通りに進めれば確実に勝てるし、今後も安泰だなんて言われたら……そりゃあ預言を信仰している奴らは喜んでやるだろうな」

「そう言う事だ」

「でもよ」



頷いたトゥナロを、グレイは「それだけじゃねーンだろ」と睨んだ。



「戦争を詠んだ預言なんて今まで散々あっただろうし、今更それくらいで覆してくれ……だなんて思わねェだろうよ。繁栄して、その先に何がある?」



そこから先はグレイも知らないようでそう聞くと、トゥナロは眉間に皺を寄せると一度黙り込んだが、やがて意を決したように重く口を開いた。



「『ND2020。要塞の町はうずたかく死体が積まれ死臭と疫病に包まれる。ここで発生する病は新たな毒を生み、人々はことごとく死に至るだろう。これこそがマルクトの最後なり、以後数十年に渡り栄光に包まれるキムラスカであるが、マルクトの病は勢いを増し、やがて、一人の男によって国内に持ち込まれるであろう。かくしてオールドラントは障気によって破壊され塵と化すであろう。これがオールドラントの最期である』」

「なっ………!?」

「………終末記って事かよ」



預言を信じた、その先は破滅を約束された未来。そのカウントダウンは、既に始まっている。アクゼリュスの崩落はそれを示唆する一部でしかない。



「ヴァンの計画にしても、モースの思惑にしても……どの道このまま行けば、この世界は遠くない未来に腐り堕ちて滅びる運命にある」

「それはヴァンも知っての事なのか?」



そもそもこれは第六譜石には記されていなかった筈だった。ティアに命じて第七譜石を探している所からすると、未曾有の繁栄を信じて疑わないモースは知らないのだろう。

ならヴァンはどうだろうか。彼の計画を知っていたグレイは疑問に思わざるを得なかった。しかし彼が知っているのなら、そもそも”あの計画”は最終的に意味をなさないのではないだろうか。そんな意味を込めて聞くと、トゥナロは肩を竦めた。



「どうだろうな。だが知っていたとしても、あの野郎の最終地点的にはあまり興味がないのかも知れないな」



どうせ最後に消えるのなら、自らの手で滅ぼすか、預言で滅ぼされるかの違いだ。



「まぁ、アイツの性格的には預言通りにするのは癪だろうから、前者を選ぶだろうけどな」

「そんな………そんなの、あんまりすぎるわ」



悲観するタリスに同意するようにグレイは舌を打つ。



「だからこそ、お前達に頼みたい。預言の呪いからこの世界を救って欲しいんだ」

「でも、具体的にはどうしたら良いのよ」



せめて何かヒントはないの、とタリスの意見は尤もだった。ただ漠然と言われてもアクゼリュスの二の前になるだけだ。



「一番の問題は障気だ。これは創生歴時代にユリア達でも解決出来なかった問題だ。オレもその辺は詳しい訳じゃないから説明は出来ないが、過去の技術と今ならではの知識、そしてこの世界の常識とはかけ離れた条件。ローレライが言うには、これらが最悪の未来を回避するヒントになるのではないかと考えているらしい」



もしかしたら、異世界の者達がいなくても預言を覆すことは出来る可能性だってある。だが、少しでも犠牲を減らして光ある未来に導けるのなら、ユリアの愛した世界を守れるのならば……少しでもその可能性を上げるに越したことはないのだろう。



「今のオレから伝えられるのはこのくらいだ」

「そう……じゃあ、最後にもう一つだけ聞きたいんだけど」



預言についてはわかった。ヴァンの計画を阻止すると共に、最終的には障気をどうにかしなければならないと言うことも。今すぐにどうにかするには、自分達はあまりにも色々な物が不足している。こればかりはこれから動いていくしかない。

それとは別に、タリスはどうしてもこの男に聞いておきたいことがあった。
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