A requiem to give to you
- 捩れた絆と見守る者(5/5) -



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それから更に数時間後。長い時間をかけて大地の降下が終了した。

ルーク達は一度集まるとセフィロトを出て、ザオ遺跡の外で待機していたノエルの元へと戻り、アルビオールへと搭乗した。それから直ぐにアルビオールは大空へと飛び上がり、紫の世界へと舞う。

障気の覆う世界に不安はあるが、一先ずは大地の崩落が防げた事に安堵の息を吐くのも束の間。ジェイドはノエルへと声をかけた。



「ノエル、暫くセフィロト周辺の空を飛んでもらっても構いませんか?」

「はい、勿論大丈夫ですよ!」



そんな元気な返事と共にアルビオールを加速させる。それから直ぐに目的の地点へと近付き、泥の海から噴き上がる光の奔流を見つけた。

が、しかし……



「なぁ、あれ……何かおかしくないか?」



ルークが光の奔流、セフィロトツリーを指差して言った。それに倣い他の皆もツリーを注視し、それから気が付いた。



「何だろう……。眩しくなったと思ったら消えかかったり………まるで切れかけの音素灯みたい」

「やはり、セフィロトが暴走していましたか……パッセージリングの警告通りだ」



アニスの言葉を聞きながら、ジェイドは大きく溜め息を吐いた。



「恐らく何らかの影響でセフィロトが暴走し、ツリーが機能不全に陥っているのでしょう。最近各地で地震が多いのも、崩落のせいではなかったんですよ」



大地を支えている筈の柱が機能不全。つまりこのままにしていれば、近い将来ツリーは完全に機能を停止するのではないだろうか。

その先に待ち受ける未来に、この場にいる全員の背に悪寒が走る。



「パッセージリングの耐用限界に到達、と出ていました。恐らくセフィロトが暴走したせいでしょうね」

「つまり、このままセフィロトが暴走し続ければパッセージリングは壊れる……よな?」



グレイの言葉にジェイドは眼鏡を押し上げた。



「パッセージリングはツリーを発生させる為の機関。壊れれば当然ツリーは消失し、外殻大地は落ちます」

「マジかよ!? ユリアシティの人達はこの事を知っているのか!?」



ルークは勢い良く立ち上がりティアを見る。ティアは首を横に振った。



「お祖父様はこれ以上外殻は落ちない、と言っていた。だから知らないんだわ」

「なぁ、ちょっと良いか」



ガイがハッとしたように声を上げた。その表情に嫌な予感しかしないと仲間達は彼を見るが、その予感は見事に的中する。



「セントビナーもケセドニアも、液状化した大地の上に浮いてるんだよな」

「それって、パッセージリングが壊れたらそれを支えている物がなくなる訳だから……」



その先は、言わなくても想像には難くなかった。



「泥の海に沈みます。液状化した魔界の大地が固定化するなら話は別ですが……そもそも障気の汚染と液状化から逃れる為に外殻大地を作ったのでしょう?」



そう、本当ならば本末転倒も良い所なのだ。外殻大地を作った理由はジェイドが述べた通りだとして、しかしその作った大地の崩落を防ぐ為に再び魔界へと大地を降ろしている。そもそも根本的な解決がされていないのだから、ただ大地を降ろすだけでは結局の所滅びの道は逃れられない。



「障気も液状化も、当時の人達が解決出来ていないかった問題よねぇ」

「ええ、ですので……現段階では大地の固定化と言うのは望みは薄いでしょう」

「どうにか、せめて原因だけでもわかれば良いんだけどな」



ヒースの呟きはこの場の誰もが知りたい事だ。だがしかし、昔の人々でわからなかった事が今直ぐにわかる物でもなく、かと言ってこの現実をただただ受け入れるのは悔やまれた。



「本当に、手はありませんの……?」



ナタリアの悲願する声に全員が黙り込む。それから暫くして、ルークがティアを見た。



「なぁ、ティア」

「何?」

「ユリアの預言には、セフィロトが暴走する事は詠まれていないのか? 暴走するには理由があるだろ? 対処法とか、何か預言にないかな?」



そんなルークの言葉にティアは少し考え、それから残念そうに首を振った。



「仮にあったとしても、お祖父様では閲覧出来ないと思うわ」

「このレベルになると、あるとしたら秘預言になるだろうしな………って、ン?」



ティアに同意するように言葉を繋げたグレイだが、言っていて何かに気が付いたのか、首を傾げるとアニスを向いた。



「オイ、アニス」

「ふへ?」

「秘預言って確か、教団じゃ詠師職以上が見れるんじゃなかったっけか?」



その言葉にアニスもハッとした。



「そうか、イオン様なら……!」



アニスは今までの表情から一転して目を輝かせると仲間達を見渡した。



「イオン様なら、ユリアの最高機密も調べられる筈だよ!」

「本当か!?」

「そう、か。イオン様は導師だから……」



一抹の希望に表情を明るくしたルークと、イオンの役職を思い出したヒースの言葉にアニスも力強く頷いた。それにルークは皆を見た。



「ダアトへ行こう! 何か対処法があるかも知れない!」



それに仲間達も頷く中、ナタリアは「でも、」と心配な面持ちで言葉を紡いだ。



「戦争を止める為にバチカルへ行くと言うのは、どうしますの?」

「それなんだけれど、戦場が魔界に降下したのなら、今は戦争どころではなくなっていると思うわ」



ティアの言葉にグレイも同意する。



「ま、普通に考えて何の知らせもなく突然大地が下がったり、空が紫色になんて染まったりしたら戦いなんて続けられねーだろうよ」



そもそも各国の指揮官が優秀であるなら、兵力の事も考えて不測の事態で突っ込ませるなんて真似はさせないと思うぜ。

そう続けたグレイの言葉にタリスが「言い方」と咎めるも、少しだけ安心出来たのかナタリアは苦笑を浮かべながら「それだとよろしのですけど」と息を吐いていた。











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