A requiem to give to you
- 捩れた絆と見守る者(4/5) -



そしてティアがおずおずと小さく口を開いた。



「その……私にはそう言うのはわからないけど、でもそれって今が本人達にとって一番良い距離感だって言うのなら、放っておいてあげた方が良いんじゃないかしら?」

「お、俺もそう思う」

「もう! 二人とも鈍いんだから!」



どうやら二人の回答がお気に召さなかったらしい。アニスは腰に手を当てると小さく憤慨した。



「あたしはね、思うの。アレはきっと魔の三角……いや、四角関係があるんじゃないかって!」

「それだけ聞くとスッゲェ泥沼……」

「いや、実際は言葉以上に複雑なのかも知れないぞ?」



と、ガイも語る。



「今まで四人を見てきた感じ、タリスはレジウィーダに遠慮してるんじゃないかって思うんだ」



その言葉にルークは「ん?」と首を傾げた。



「それ、逆じゃねぇか?」



今までのタリスとグレイ関係性とそれを見てきたレジウィーダの態度を顧みるに、彼女は二人の関係を後押しする上で一歩引いているように感じていた。いくら四人が幼馴染みだからと言って、恋仲な二人の関係性まで無理に割って入るのはルークでさえも気が引けてしまう。

それにタリスとグレイだって普段はああだが、お互いに大切にし合っているのは前にフーブラス川でのやり取りを見てもよくわかっていた。だからこそ、下手に踏み込まないように、余計な事を考えないように…………胸の奥に秘めていた感情を見て見ぬフリをしてきたのだ。

そんなルークを他所にアニスは「て言うか」と続けた。



「どっちも、じゃないかな」

「と、言うと?」

「そのまんまだよ」



そう言うとアニスはより声を顰めると先日のグレイとレジウィーダの間であった出来事をルーク達に話した。

話を聞き終えたルークとティアは神妙な気持ちを抑え切れずに小さく息を詰まらせた。



「……そんな事があったんだな」

「ダアトにいた頃から小さい事でも喧嘩の多い二人だったんだけどさ。あの時は流石に今までとは違う感じがして吃驚したよ」

「嫌いなままでいてくれて良かった、なんて………どんな心境になったら出てくる言葉なんだろうな」

「………………」



『あたしは、あたしの大切な人達に幸せになって貰いたいんだ。あの二人にも……だからどちらかじゃなくて、どちらにも笑っていて欲しいなって思う』



ルークの知るレジウィーダとは、二人の幸せを願っている。二人が真に笑い合い、手を取り合える仲である事を。

しかし嫌いなままでいて良かった、とはどう言う事だろうか。単純に二人の幸せを願うだけなら、そのまま見守れば良いだけの話だ。それなのに、敢えてグレイ本人にそう言った理由とは?

嫌いな訳はない筈なのだ。相手に嫌って欲しいと言うことは、つまりは自分からは出来ないと言う事。



「レジウィーダってさ、本当はグレイの事が………そう言った意味で好きなのかなって思うんだよね」

「俺もそうだと思ってるんだけどなぁ」

「それはそれで安直なような……」



アニスとガイの言葉にティアは今一つピンとは来ないらしい。しかしアニス達は自分達の考えは間違っていない自信があるのだろう。アニスは「でもさ」と言って続けた。



「レジウィーダはさ、どこでも構わず喧嘩するような仲のグレイがタリスと二人でいる時はいつも距離を取るじゃない?」

「え、そうなのか?」

「そうだったかしら?」

「気付いてなかったかぁ……。いや、まぁそう言う傾向が見られてたなって事だよ」

「割とあからさまな気もしたけど」



どうにもこう言った事に経験値が少ないルークとティアは少し察する力が弱かった。それに苦笑やら呆れを浮かべる二人だが、直ぐに仕方がないと言いたげに肩を竦めた。



「でもね、あたしが見てきた中でレジウィーダとグレイの喧嘩って一種のコミュニケーションだと思っていたんだよ。少し過激な所はあったけど、二人ともそのやり取りをどこか楽しんでいるような………そんな感じがしたんだよね」



そう言われると、確かに納得出来るような気がした。あの二人の喧嘩は最近はともかくとして、決して憎み合ってのモノとは思えなかった。コミュニケーション、と言うか仲が良いからこそのじゃれ合いのような感じがして、見ていてもどこか微笑ましかったように思える。

そしてその時のレジウィーダやグレイは年相応、いや時により実年齢よりも幼く自分を惜しみなく出し合っているようで、とても生き生きとしていた。そんな二人を見ていたタリスやヒースも、呆れながらも暖かく見守っている。それが本来の四人の関係性なのだろう。



「つまり、タリスもレジウィーダに遠慮していると言うのは………そんなレジウィーダにとっての喧嘩相手との関係を変えてしまった事から来るもの、と言う事なのかしら?」

「その辺については本人達に聞いてみないとわからないけど……近いのかも知れないな」



同じような事を考えていたティアの言葉にガイがそう言い、次いでクルリと顔を後ろに向けるとその先にいた人物に向かって口を開いた。

「───それで、実際のところはどうなんだ?」



ガイが問いかけた先、そこには少し離れた場所で我関せずに武器のメンテナンスをしていたヒースがいた。

かなり離れた場所にいる他のメンバーはともかく、ヒースにも当然今の会話は聞こえていた筈だ。そしていつかは自分にも何かしら飛んで来るのがわかっていたのだろう。彼は静かに武器を鞘に収めるとこちらまで歩いてきた。



「近からず遠からず、と言ったところですかね。……いや、」



寧ろかなり近いのかな。

そう答えたヒースにアニスは嬉しそうに手を叩いた。



「ほーら、やっぱりね!」

「ただ、」

「ただ?」



言葉を止めたヒースにルークがオウム返しで問う。彼は少しだけ言い淀むと、やがて「本人達も覚えてないから後で余計な事を言わないで欲しいんだけど」と前置きをした。



「元々は、グレイがレジウィーダに想いを寄せていた……ってのが前提に入るんだよ」

『え!?』



これにはアニス達も予想外だったのか、驚いたように声を上げた。その反応もわかっていたのか、ヒースはどこか寂しそうに苦笑した。



「僕からは詳しくは言えないし、未だにわかっていない事も多いからこれ以上教える事は出来ない。だけど………どんな形にしろ、今が三人にとって自分を見つめ直す時なんだと思う。だから今は、そっとしておいて上げてくれないか?」

「でもヒースはそれで良いのか?」



きっと、他の三人と同じように、彼もまた自身の幼馴染みを本当に大切にしているのだと思う。それを見守るだけだなんて、辛くはないのだろうか。

そう思って問うと、ヒースは首を横に振った。



「良いとは思わない。けど、無理に入ったところで追い詰めるだけだってのも、過去の経験上わかっているんだ。だから今は様子を見て、本人達が助けを求めるようなら喜んで手を貸す」

「ヒース……」

「あ、でも」



思い出したようにそう言うと、途端にその表情は偶に浮かべる謂わば「悪い顔」をしていた。



「あまりにも目に余るような事をしたり、知らない内にくだらない怪我とかをするようなら…………














その時は僕が直々に締め上げるつもりでいるから」

『…………………』



いっそ清々しいとも言えるその言葉に、流石に誰も何も突っ込むことが出来ずに口を閉ざすしかなかった。
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