A requiem to give to you
- 捩れた絆と見守る者(3/5) -



「グレイはモースの言っていた事は、事実だと思う?」



そう問われ、静かに言葉を詰まらす。

モースの言っていた”偽の姫”とは事実だ。しかしそれをグレイから本人に伝えたところで、どんなに悩もうとも彼女は信じないだろう。……唯一の家族である父親の口から真実を聞くまでは。

だがしかし、それは彼女にとって最も辛い現実を突きつけられる事になるのは間違いない。

信じていた家族から否定される事。それはきっと凄く悲しくて………泣き腫らして、眠れないくらい辛いのだと思う。



「……事実かどうかは、全てはキムラスカに行けばわかるだろ」

「それは、そうだけど………」

「なぁ、タリス」



と、何かを言い募ろうとする彼女の言葉を遮る。



「信じていた現実が崩れる瞬間ってのは、体験した者にしかわからないモンだ。そこに受ける絶望も、悲しみも……全部」

「グレイ……? 貴方、なんでそんな事を……? まるで、」



そうなった時の事を知っているかのような言い方をして。

きっと言葉の続きはこうなのだろう、と先を言い淀む彼女に自嘲した。知っている、なんてモノじゃない。



『ニセモノ』



時折、夢で出てきては何度も言われるその言葉は、その昔確かにグレイが己の母親から言われた事である。

事の詳しい経緯はわからない。だがしかし、グレイ自身もそれを否定出来る要素を持ち合わせてはいないのだから、幼かった彼はその言葉を受け入れるしかなかった。

グレイは両親は勿論、姉弟のどちらとも全く似ていない。他の親族にだって、似た人はいなかったらしい。

成長するに伴ってその事実に疑問を持った母が己を疑うのはある意味必然だった。そこから色々と調べたらしく、その内に何かを知ってしまったのだろう。













優しかった母はいつからか息子を、”陸也”を見る事はなくなってしまったのだ。

それでも家を追い出されなかったのは、彼自身が幼かったからだろう。また、姉弟達の前では変わらず優しい母のままだったから、”息子がいる”と言う事実だけは否定したくなかったのかも知れない。



(だけどそれは、今は関係のない事だ)



例えタリスやヒースであろうとも、これはグレイ自身の個人的な事なのだ。だから誰かに言った事もないし、現状が維持されている今はまだ……二人にだって言うつもりはない。

だけど、これだけはちゃんとしておきたい。



「それは別に良いンだよ。………それよか、お前ナタリアと仲良いだろ? 何かあった時は、ちゃんと”逃げ道”を用意しておいてやれよ」

「逃げ道………ねぇ」



やはりと言うか、あまり納得していない様子が隠しきれないタリスだったが、こちらがこれ以上言わないの理解するとやがて渋々と頷いた。



「わかったわ。私で良ければ、いくらでも”逃げ道”を用意するわ」

「ああ」

「貴方もよ」



そう言ってタリスは少しだけ悲しそうに笑った。



「逃げたくなったら、いつでも待ってるわ」

「…………!」

「いざと言う時は、私が貴方の”逃げ道”になるから」



……………。















『私が………私が貴方の”逃げ道”になってあげるから! だから泣かないで…………貴方が逃げたいと思う限り、私は側にいるから』



それは、彼女と”今の関係”の始まりの時にも聞いた言葉だった。

確かに始まりは、そんな彼女の手を取った事だったのを思い出す。それと同時に、今まで見てきた記憶の断片から読み取れてしまった事実に打ち拉(ひし)がれそうになりながらも、それらを全て飲み込むと、グレイはタリスのその言葉に苦笑して返した。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







「うーん……」



アニスは少し離れた所で二人で話をするグレイとタリスを見て、難しい顔をしながら悩ましげに唸った。

そんな彼女にルークは首を傾げた。



「アニス? どうしたんだ?」



つい先程までアニスはイオンの事を考え、彼の身を心配し深い溜息を吐いていたのを覚えている。彼女なりに気持ちを切り替えたようだが、今度は何やら違う事に悩んでいるようで、ルークの側にいたガイやティアも近寄ってきた。



「グレイとタリス?」

「あー、うん。そうなんだけどね」



二人を見遣ったガイが問うとアニスは頷く。



「前々から思ってたんだけどさぁ。あの二人ってやっぱり恋人同士に見えないって言うか……別に隠している訳じゃないのに、どこか遠慮があるって言うか……ふみゅう……」



何と言葉を言い表したら良いのかがわからないのだろう。遂には頭を抱え出す彼女にガイも「ああ、」とどこか納得したように顎に手を添えて考え出した。



「確かになぁ。俺達や今の状況を気にしてるのかと言われればそうでもないし、かと言って二人きりでいようだとかそう言う感じでもないし……」

「そうそう! 正直、二人が自分達でカミングアウトするまでわからなかったよ!」

「そのくらい、二人で……って言うより”四人でいる事が当たり前”みたいな感じが強いんだよなぁ」



うんうん、とお互いの言葉に共感し合う二人に今一つついて行けないルークは同じような心境になっているティアと顔を見合わせた。
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