A requiem to give to you
- 破滅の未来とフォミクリー(2/6) -



ふわふわとした浮遊感。下も上もなく、まるで無重力の空間を漂うかのような感覚。辺りを見渡しても何もなく、暗くも明るくもない。しかし決して冷たい訳ではなく、どことなく暖かい。そんな場所にレジウィーダはいた。

──────はて、



「ここ、どこだ?」



最後の記憶は紫の空からくらい毒の海に向かってジョンと共にゆっくりと降下しているところだった──────いや、違う。ここに来る前、最後に見たのは幼馴染みの泣き顔だった。

普段だったなら揶揄っていたであろう彼の珍しい表情。それは間違いなく自分に向けられた、しかしどこか懐かしいその顔を見た瞬間に安心感を覚えていていた。



「………ホント、憎たらしいくらい様になってやがって」



性格はアレだし、趣味ではないが彼は間違いなく世の女性が好む部類の顔をしているのだろう。性格はアレだが(二回目)

そんな事より、とレジウィーダはもう一度辺りを見渡す。変わらずそこには何もない世界が広がっている。



(もしかして、次元の狭間にでも来ちゃった?)



それともプラネットストームにでも飲み込まれたか。後者に関しては入った事はないし、恐らく入ったら生きて戻ることなど出来なさそうではある。

困ったように唸っていると、突然身体全体を暖かい何かに包まれたような感覚を覚えた。



「これって、マナ? ……違うな」



これはきっと音素だ。それも、とても純度の高い第七音素。

そう言えば先程も似たような第七音素を浴びたような気がする、と心の隅で思っていると、唐突にレジウィーダは閃いたように手を叩いた。



「そうだ! 取り敢えず第七音素で能力を使ってみれば良いんじゃない?」



取り敢えずこの状況をなんとか出来るかも知れない。そう思って早速能力を使おうとすると……



『死に急ぐなバカ!』



そんな聞き覚えのある声が引き止めた。



「ん? トゥナロさん?」



声の主は恐らく彼のローレライの使者だろうとアタリをつけて名前を呼ぶと、姿の見えないその存在は呆れたように溜め息を吐いた……ような気がした。



『お前な………死にたいのか?』

「どう言うこと??」



全くもって訳がわからないとそう返すと、彼はさらに呆れた様に言った。



『何であんな大怪我を負ったと思ってるんだ。奇跡的に傷が癒えたから良かったものの、一歩間違えればマジで死んでたんだからな』



大怪我を負った理由。それはフィリアムに斬られる直前に負った方の事だろう。勿論後者も大分致命傷ではあったが、彼の口振りからどうやら一応治ってはいるらしい。



『只でさえ無茶苦茶な力の使い方をして、それを無理矢理解除させられてるんだ。それだけでも相当負担がかかってる上、今のお前が第七音素…………いや、能力そのものを使ってみろ。今度は間違いなく体が内側から吹き飛ぶぞ』

「うわ…………」



思わず想像してしまい、血の気が引く感じがした。止めてもらって本当に良かった。



「でもさ、そもそも何で能力が解除させられたんだ?」



自身の持つ力を最大限に引き上げるとされる生命の石を用いての能力だ。響律符よりも強力なそれを使っているのもあり、そう容易く解除されない自信があった。それでもこのような結果になってしまった事にレジウィーダは頭を悩ませた。



『……考えられる要因は主に二つだ。一つ目は、ヴァンが使ったユリアの譜歌』

「あ、やっぱりアレってユリアの譜歌だったんだ」



セフィロトツリーに張っていた護りを解いた時に微かに聞こえたものはやはりそうだったのだろう。ティアからはまだ聞いたことのない歌だった為、直ぐにはわからなかったがそもそもティアがユリアの血筋の可能性があるのなら、当然ヴァンもそうであるのだ。



『詳しい事はまた今度話す。問題は二つ目だ』

「うん」



ルークの超振動にぶつけていた分の術が解除された方だろう。相手の威力を弱めていたヒースの能力もまとめて解かれてしまったその要因を、レジウィーダはどことなく予想が出来ていた。



『フィリアムの能力だ』

「多分そうだろうとは思ったよ。でも、それだとおかしくない?」



レジウィーダの能力はエネルギーの変換だ。当然レプリカであるフィリアムもそれが使えていた。しかし彼にはそれとは別にもう一つの能力が発現したことになる。そしてそれは、レジウィーダには使えない。そんな事があるのだろうか、と疑問に思っているとトゥナロが答えた。



『あいつの存在自体がイレギュラーだからな。正直それについてはオレにもわからん。ただ、あの力は”解除”をすると言うよりは……』



お前達が能力を発動する前に“戻した”ようにも見えた。



「“戻した”?」

『確証はない。だが、いずれにせよ危険なことには変わりはないから、次に対峙する時は十分に気をつけろ』



向こうはお前を殺す気でいるからな。そう静かに伝えられた言葉にレジウィーダは何とも言えない気持ちで頷くしかなかった。

それからトゥナロが「話は以上だ」と言うと、急激に眠気が襲ってきた。



『もう少ししたら起こしてやる……………だから』



今はまだ大人しく寝てろ。そんな優しい声を最後に意識は途切れた。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇


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