A requiem to give to you
- 馳せる追想、奏でる回顧・後編(8/10) -



ドクン、と心臓が跳ねる。

最近、こんな事ばっかりだと思いながらもレジウィーダは苦笑した。



「急にそんな事聞かれても……難しいなぁ」



そう返すと”イオン”は一瞬だけキョトンと破顔し、それからこちらと同じように笑った。



「………そうですよね。いきなり難易度を上げてしまってすみません」

「ううん。でも色々と聞いたりしてると、ついつい考えちゃうよねー」



はぁ、と知らずに息が詰まっていたらしく大きな溜め息をついて座り込む。それに”イオン”も再び近くに座るともう一度空を見上げた。



「ねぇ、レジウィーダ」

「ん?」

「貴女の住む世界の空も、同じですか?」



そう問われレジウィーダは空を見る。

澄み切ったそこに広がる星の海。己の住む街では文明の発展の影響でここまではっきりと見る事は叶わないが、それでも…………昔、よく四人で田舎へ遊びに行った時などは、この空と同じ澄んだ藍色と満天の宝石達を夜遅くまで見上げていたのを思い出す。

その時の気持ちは……













確かに楽しかった。



「……うん」



ずっと、この時間が続けば良いな、だなんて思ったりもした。

願ってはいけないと思いつつも、あの時だけは………皆でいる事がとても心地よくて、いつまでも皆で見ていたいと願った。



「星空って、すごく不思議だと思うんです」



“イオン”はそう言って星に手を伸ばす。



「まるで魔法のように、何でも綺麗に洗い流してくれるような………それでいて勇気をもらえるような、そんな気持ちにさせてくれる」



だから、ちょっとだけ愚痴を言わせて下さい。



「あるところに、とても優しい人がいました。いつも周りに元気をくれる光のような人です。時々、やり過ぎてしまう事もあるけれど、だけど確かに救われた人もいます。彼女に救われた人や元気をもらった人達はその人が大好きになりました」



ですが、と”イオン”は少し悲しげに眉を下げた。



「彼女は自分が愛される事を恐れています。事情はわかりません。ですが、周りが彼女に近付けば近付くほど………怖がって逃げてしまうのです」

「……………」

「また別のある人は、己の人生を諦めていました。全てを投げ捨ててしまいたい程に悔しくて、憎らしくて、ついには悪魔の手を取りました」



全部全部壊れてしまえば良い。全てが手遅れだと知って、後悔してしまえ。



「───と、そんな考えすらあったようです。ですが、ある時その考えを改める出来事がありました」

「その日はきっと、今日みたいな良い天気だったんだろうね」



ふと、脳裏に浮かんだ情景に小さく呟くと、”イオン”は頷いた。



「風のように大空を飛んで、普段は己を包むくらい大きな街がおもちゃの様に小さくなっていく様子に驚いて、それからこんな丘でキラキラとした星を見ました。───その場の雰囲気に呑まれたのでしょうか。不思議な事に、その人はそこで自分を連れ出した人に今までの気持ちをぶつけました」



ずっとずっと隠してきた憎しみと、叶わないと諦めていた願い。溢れ出したら止まらなくて、久しく流れていなかった涙と共に吐き出した。



「彼女はどんな感情も全て受け止めました。勢いで叩かれた頬だって痛かっただろうに、そんな素振りは一切見せずに、ありのままの”僕”でいられる時間を作ってくれたんです」



それでね、と”イオン”は続ける。



「全てが”終わり”、再び合間見えた時………彼女にお礼を言いたかった。ですが彼女は何かをすごく悩んでいる様子でした。これは完全に僕の直感ですが…………それが何だか、いつかの自分と同じような気がしてなりませんでした」

「…………………」

「そのせいなのでしょうか。彼女は人の好意も、そして悪意も受け取ろうとはしません。全てを受け流そうとするのです。それってとっても

















ムカつくと思いません?」



言葉とは裏腹にニッコリと笑った”イオン”に、レジウィーダは懐かしさを感じずにはいられなかった。それと同時に、一つの可能性を確信せざるを得なかった。



「人には共感して、励まして、優しくしておきながらどこまでも一方通行ですし。それに相手から理不尽な事をされても違う事で文句を垂れるし………見ていて大変腹立たしかったですよね」



ねぇ、どう思います?



「人からの好意ってやっぱり煩わしいですか? あと、謂れのないデタラメで理不尽な目に遭っても何も感じないものなのでしょうか? 貴女は…………















実は人形かなんかでしたか?」



ブツン、と何かが切れる感じがした。



「……………んな訳、ないだろ」



言いながら、思わず拳に力が入る。



「何で顔も殆ど知らない人に文句を言われなきゃいけないんだよ。話した事だってなかったのに」



あの時、アニスやイオンを馬鹿にされた事は許せなかった。それは本当だ。だけど……



「こっちがやり返さないからって寄って集って言いたい事言いやがって、汚ったない水までかけてさ」



確かにわかりやすい結果は出していない。人が用意した土台で胡座をかいていたのも事実だ。



「だけど、それをアイツらに言われる筋居合はない。確かにサボったりする事もあったけど、実戦はなくても仕事だってずっとしていたよ」



これは、この感情はきっと……



「悔しくない訳、ないじゃんか」
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