A requiem to give to you
- 馳せる追想、奏でる回顧・後編(7/10) -



日は既に大分傾いてはいるがあまり遅くならなければ大丈夫だろうと思い、いつになく足取り軽く進んでいくイオンの隣に並ぶ。



「それで、この先に何があるんだ?」



皆目見当もつかずにそう問うと、イオンはこちらを見て何かを言いかけ……直ぐに「秘密です」と面白そうに笑って返した。

それから思ったよりも時間をかけて歩き、着いた先は街から少し離れた丘のような場所だった。その時には日は完全に落ちており、夜空には瞬く星々が浮かんでいた。

───この場所を、レジウィーダは知っていた。



「ここって……」



忘れもしない。ここは確かに、二年程前に《イオン》と来た場所だ。

何故、彼がこの場所を知っているのだろうか。いや、彼だって生まれて二年程だ。全く来た事がないとは言えないが………それでも、何故敢えてこの場所へ来たのだろうとレジウィーダが疑問に思っていると、イオンは夜空を見上げて伸びをした。



「ここは、静かでとても落ち着きます」



初めて来た時は全然わかりませんでしたが、改めて来るととても良い所ですよね。

そう言って地面に座り込むイオンにレジウィーダは戸惑う。



(イオン、君………?)



ここまで来て、今までの既視感の正体がわかったのだ。

これは、二年前と同じ事を準えているのだと。

目の前の彼があの《イオン》のレプリカだから、無意識に同じような動きをしているのか。それとも記憶の一部を共有しているのか(しかしここに初めて来た時には既に彼は生まれている筈だからその可能性は限りなく低い)

偶然にしては出来過ぎているソレに、レジウィーダは目の前の存在を訝しむ。



「君は、一体…………」

「レジウィーダ」



“イオン”はこちらを振り向かずにレジウィーダの名前を呼び、そして問うた。



「運命って、どう思いますか?」

「どうって?」

「そうですね………例えば、預言なんて一番わかりやすいですね。貴女にとって預言に詠まれる未来、それは運命だと思いますか?」



その問いは、この世界最大の哲学になるのだろうか。

この世界のあらゆるモノに預言が存在している。生まれてから死ぬまでが記されていると言うそれは、大きなモノで言えばこの星そのものですら最期の時が刻まれている。

何もしなければ、その記憶に沿ってこの星の時は進んでいく。そう………何もしなければ。



「預言を運命かどうかだと聞くんなら、それは違うと思うよ」



そう答えると、”イオン”は顔だけこちらに向けた。



「それはどうして?」

「預言は確かに未来を示した物だとは思う。だけど、それはまだ起こってない不確かな未来だから。何もしなかったらその通りになってしまうけど、わかっていたら………いくらでも変える事は可能だ」



何をやっても変わらないと言うのは、変えないように動く人がいるから。ダアトの派閥なんかを見ているとわかりやすいだろう。

保守派と改革派、今でこそモースが事実上牛耳ってしまっているから余計にだが、預言通りに事を進めている者達が世界的に見てもかなりの人数がいるのだ。たかが数パーセントの人間が抗おうとしたところで、世界の大多数が正そうとするのなら、変わるわけがないのだ。

だからこそ、ヴァンのような超過激な奴が出てくるのだろうが。



「多分、それがわかっているからこそ、ローレライはあたし達を喚んだんじゃないかな。って言うか、そもそもあたし達には預言がないわけだし、その時点で本来この世界が進むべき本筋からはだいぶ逸れてると思うんだけど」



世界的に見れば確かに鉱山の街は崩落したし、戦争も起こってしまっている。だけど自分達がこの世界に来たことで、確実に変わった関係もある筈だ。



「ルークの使用人をしているタリスとヒース。二人が彼の側にいなかったら彼はもっと狭い世界にいたかも知れない。ダアトで神託の盾として働いていたアイツ…………グレイもそう。アイツが六神将の補佐をしていなかったら、今よりももっとシンクやアリエッタ達との関係も悪くなっていたかも知れない」



アリエッタと言えば、タリスが仔ライガの卵を拾ったからこそ、アリエッタとの蟠りも緩和した。もしもそれがなければ、彼女は言葉の通り地の果てまで追いかけてでもルークたちに牙を剥いていたのではないか。



「まぁ、起こらなかった事実については本当に可能性の話でしかないんだけどさ。それでも、ローレライが希望を持ってあたし達を選んでくれたんだとしたら、今まであの子らのして来た事は、決して無駄ではないと思う」

「……なるほど」



そこまで言うと”イオン”は顎に手を当てて考えてから、小さく頷いた。



「では、続いて伺いたいのですが………これは預言がどうとかは考えなくても構いません」

「……どうぞ?」



先を促すと”イオン”は座ったままだが、しかし今度はしっかりとこちらを見上げて言った。



「大切な人が目の前から二度といなくなりそうな可能性がある時、貴女ならどうしますか?」



諦めますか? それとも、助けますか?



「それは………出来る事があるのなら、精一杯助ける為に動くよ」

「間に合わないとしても?」

「それでも、やらないよりは……例え間に合わなかったとしても、やれるだけの事はやりたい。だって、それで変わる未来だってあるかも知れないから」



素直な回答。これは間違いなく本音だ。それを伝えると”イオン”は立ち上がり、真剣な眼差してこちらを見ると口を開いた。



「では、それが貴女自身の事だった場合には?」



貴女の先程答えたように周りが動いたら、貴女はどうしますか?
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