A requiem to give to you
- 馳せる追想、奏でる回顧・後編(6/10) -



「ええ、仕方がありません。命令を下してからそれなりに時間が経っているのに報連相一つまともに出来ない者達など、クビにするしかありませんよね」

『え……?』



ニッコリと、普段のイオンらしからぬ清々しい笑みで言い放たれた言葉に安堵から一転、顔面を真っ青にした女性達。

それはそうだろう。己の発言一つで関係のない上司達が職を追われようとしているのだ。この女性達にどれだけの責任感があるのかはわからないが、相当やばい事を言われているのはわかるらしい。彼女達は慌ててイオンに擦り寄っていた。



「イ、イオン様……隊長らは今回の事とは無関係でして……」

「そうです! 報告に気付かなかったのはこちらの落ち度と言いますか……ねぇ?」



そう言って顔を見合わせる女性達。そんな彼女らにイオンは残念そうに首を振るとレジウィーダを向いた。



「どうやらこれ以上は無駄なようです。……行きましょう、レジウィーダ」

「あ、うん……じゃなくて、はい………」



有無言わさずな雰囲気のままイオンに連れられ、レジウィーダはその場を後にした。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







それからレジウィーダは強制的に自室へと戻る事になった。流石にもうシンクの姿はなかったので、備え付けのシャワーで汚水を流してから適当な服に着替える。

セントビナーで子供達が編んでくれた三つ編みが上手い事解けず、諦めてそのまま流す事になったのは悔やまれるが、時間があれば後でアリエッタにでも解いてもらう事にしよう。

取り敢えず仕事でもないのでラフな格好に着替えたレジウィーダがもう一度部屋を出ると、部屋の前にはまだイオンが立っていて驚きに声を上げた。



「え、ずっといたの!?」

「はい」



流石に部屋に入るわけには行きませんから、と申し訳なさそうにするイオンにレジウィーダは全力で首を横に振った。



「そんな事までしなくても良かったのに! 助けてくれただけでも有り難かったよ」

「ですが、あの事態が想像出来ていながら守れなかったのは僕のせいです」



やはりイオンはわかっていたようだ。レジウィーダが同僚達からよく思われていなかった事を。

同じ時期にここにきたグレイやフィリアム、シンクと違ってレジウィーダには表立った実績がない。書類仕事が主だったのもあり、普段から何をしているのかもわかり辛い為、余計に彼女らは面白くなかった事だろう。ある意味、言われても仕方がないのかも知れない。

しかしだからと言って、レジウィーダはイオンを責める気はなかった。



「イオン君。あたしって、今までたくさんの人に守ってもらって来たんだなってわかったよ」

「レジウィーダ……」

「今まで自由に出来たのも、君たちが守ってくれていたお陰だ。でも今日の事がなかったら、きっとあたしはそれを知る事はなかったんだなって思う」



恐らくだがこちらが気が付かない限り、今までの様子からもイオンやグレイ、他の者達もそれをレジウィーダに言うつもりはなかったのだろう。

それに何だか無性に悔しさと、息苦しさを感じずにはいられなかったが、こちらの為を思ってやってくれていた事なのもわかっていたので、レジウィーダはそれらを飲み込むとイオンへと笑いかけた。



「あたしはこの通り元気だから! 心配してくれてありがとう」



だから安心して戻ってほしいと、そう思ってお礼を言ってみたが、なかなか思い通りにはいかないらしい。イオンは「それなら」とレジウィーダの手を取ると笑った。



「少しだけ、そこまでお付き合い願えませんか?」






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







「これ、美味しいですね!」

「そうだね」



ダアト商業区の少し外れた場所。ベンチに座って満足そうにアイスクリームを舐めるイオンにレジウィーダは苦笑した。

あの後、レジウィーダはイオンに連れられて教会の外へと来ていた。どうやら彼も休暇を取ったらしく、久し振りに美味しい物が食べたいと言う事でレジウィーダを誘ったらしい。一箇所で食べるよりも色んなものを食べ歩きたいと言うイオンきっての希望に、レジウィーダも喜んで同行した。

先程助けてもらった礼もあり、遠慮するイオンに構わず今回の食費は全て出す事にした。教団に入りたての頃に比べて幾分か潤沢になった財布にはこれくらい安い出費である。



(喜んでくれたようで良かった)



幸せそうにアイスをコーンまで頬張るイオンについ頬が緩む。久しくゆっくりと過ごせなかった分、彼の子どもらしい一面が見れたのを思えば、来て良かったのだろう。

そこでレジウィーダは少しだけ既視感を覚えた。



(何か、前にもこんな事があったような……?)



街へと誘われた時の言葉、ここに来るまでの行動。どことなく、同じ事をした気がするなと思っていると、最後の一口を食べ終えたイオンが声をかけてきた。



「レジウィーダ」

「ん?」

「まだお時間は大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫だよ」



何せこちらは後三日もフリーなもんで。

そう返すとイオンは一つ頷き、ある一方向を指差した。



「行ってみたいところがあるんです」

「あっち?」



あの方向に何があるのだろうか。そう思い首を傾げるレジウィーダにイオンは「はい」と頷くとベンチから立ち上がり、そのまま歩き出してしまった。



「あ、待ってよイオン君!」



レジウィーダも慌ててベンチから立ち上がり追いかける。
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