A requiem to give to you
- 馳せる追想、奏でる回顧・後編(3/10) -



一先ずレジウィーダはその場にいた全員を自室へと連れて行った。シンクに至っては無理矢理担ぎ上げた事によりほぼ連行に近かったが、まだイオンの命令が広がる前に上へ報告されても困るので取り敢えず攫ってみたが、今回ばかりは間違った行動ではないだろうと思う事にした。

備え付けの椅子や簡易ソファにそれぞれ座らせ、教会に戻る途中に買ってきていたお菓子やお茶を出して一息。いの一番にお菓子に手をつけたシンクが「……それで?」と問うた。



「何でこんな敵地のど真ん中にアンタが平然といるわけ??」

「ウチの最高指導者から休暇をもらったから、かなぁ?」

「いや意味わかんないよ。だとしても普通こんな所にのこのこと帰ってこないでしょ!」

「だって、イオン君が戻るって言うから……」



あたしはアニスの代わりに連れて来られたようなものだし。

そう言うと目の前の三人はピクリと反応した。



「え、イオン様も帰ってきてるの?」

「あの甘ちゃんがアニスを置いてきた?」

「これは意外な展開ですね……」



三者三様に驚いた様子を見せるが、その理由は案の定それぞれ違っていた。

レジウィーダは窓際にいるトゥナロを見ると、彼は我関せずと日向で丸くなっていた。恐らく寝ていないとは思うが、口を挟まないところを見るとこのままライガのフリをする事にしたようだ。

それからレジウィーダは三人に事情を掻い摘んで説明した。流石に情報を全て渡す事は出来ないので、本当に簡単な経緯のみだったが、それは相手(特にシンク)もわかっている為か流石に深掘りはしてこなかった。

一通りの話を聞き終えると、シンクは何とも言えない様子で最後のお菓子を口に含んだ。



「……まさかあの導師がこんな行動に出るとはね」

「おや、でもなかなか面白くなってきたじゃないですか」



能天気なのか何なのか、実に楽しそうに宣うクリフにシンクは苦虫を噛んだように「どこがだよ」と突っ込んだ。



「ただでさえ面倒臭いことになってるのに、あまり余計な事をしないでもらいたいね。って言うか、今まで静かにしていた癖に何で今更……」

「………?」



シンクの言葉にアリエッタは不思議そうに首を傾げていた。それに気がついたクリフが「どうしました?」と訊ねると、彼女は少し考えた後で「あのね」と口を開いた。



「イオン様は……元々やりたい事は我慢しない人だよ」



その瞬間、時間が止まったかのように彼女以外の人間が黙り込んだ。しかしそんな周りに気付かない様子でアリエッタは更に続けた。



「大人の人たちがたくさんのお仕事を持ってきて忙しくなってもよく街に遊びに連れて行ってくれたし、モース様と難しいお話をした後は必ずモース様が困るように悪戯を仕掛けていたし、ヴァン総長を呼んだ時はたまに総長に譜術当ててたし」

「いやホント何してんのアイツ???」



自由かよっ、と突っ込んでしまうシンクの気持ちはレジウィーダにも十分にわかってしまった。アリエッタの話す【イオン様】とは間違いなくオリジナルの方だ。短い期間とは言え関わった事のある二人の脳裏には、あの可愛い顔に浮かべる腹黒い笑みが写っていた。

何となくトゥナロの方へ再度視線を向けると、寝たフリをしているのだろうが……全身を震わせているのがバレバレだった。

そして未だに黙っているクリフはと言うと、怒りなのか笑いなのかわからないが口元をヒクつらせて何かを堪えている様子だった。



「だからね、レジウィーダの話を聞いた時、ちょっとだけ嬉しかったの」



そう言ったアリエッタは嬉しそうな笑顔だった。



「イオン様が戻ってきたみたいで!」

「……そっか」



本当の事は、まだ伝えられそうにはなさそうだ。

レジウィーダにはその勇気が持てず、そう一言だけ返す。アリエッタは言いたい事を言えて満足したようで、部屋の時計を確認すると立ち上がった。



「そろそろ行く、です。お菓子ごちそうさま!」

「あ、うん。………あ、そうだ!」



レジウィーダは思い出したように立ち上がると窓際で変わらず寛いでいるトゥナロを持ち上げ、そのままアリエッタに手渡した。



「君がタリスに預けていたこの子、まだあまり関わった事なかっただろ? 折角だからこの辺を案内してあげて」

「良いの?」



そう言ったアリエッタは目を輝かせていた。反対にトゥナロは信じられないような目でレジウィーダを見ていたがここは無視した。



「だって元々はアリエッタの大事な兄弟でしょ? 家族との時間を大切にしなくちゃ!」

「ありがとうレジウィーダ! 直ぐに行ってくるね!」



言うが直ぐにアリエッタはトゥナロ(と言うか仔ライガ)を大事そうに両手で抱えると元気良く部屋を飛び出していった。

嵐のように過ぎて行ったそれを見届けて、シンクはクリフを向いた。



「おい、追いかけなくても良いのか?」

「……まぁ、”彼”が着いているなら大丈夫でしょう」



クリフはそう言って手元のお茶を飲み切り、それからゆっくりと立ち上がった。
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