A requiem to give to you- 馳せる追想、奏でる回顧・前編(6/6) -
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「そこにも書いてあったと思うが、フィーナを含めた預言士の護衛としてオレやアリアが駆り出された時に出会ったのが最初だ。護衛対象だったからこっちは多少は知っていたにしても、知らない筈の向こうからいきなり話しかけてきやがったからな」
「そうなんだ。まぁ、でも……トゥナロさんが積極的に知らない人に話しかけるイメージは確かにないかも」
元が元だし、と最後の方は小さく言ったレジウィーダだったが、トゥナロにはしっかりと聞こえていた。
「やかましいわ……それで、だ。そもそもなんで向こうがこっちに接触してきたかって所だが、どうにもローレライが与えた第七音素が気になったらしくてな。あとは……ヴァンがこちらの事情を多少知ってたから、奴から話を聞いたのもあるんだと思うぜ」
「あの髭侍の個人のプライバシーの雑さは昔からなんだね」
「それはオレも思う……が、しかし今はそこじゃねェ。あいつらは『時空の魔術師』の力を必要としていた。その為に色々とお前に関する情報を集めていたみたいでな。その中で昔の雪山での事件に関することもあったから、少しだけ協力してたんだ」
利害の一致。互いに必要とする情報をお互いに持っていたし、それぞれの目的のヒントになり得そうだと思ったから一時的に手を取り合った。
その当時はまだ確信はなかったが、恐らくは宙の《記憶》もこの世界に来ている可能性があったから、いつかまたこの地に現れる彼女の為にも回収しておきたかった。
だからこの世界に嘗て宙が残した痕跡を頼りに、今回の任務を機にと随分と探し回ったものだ。
結局のところ、目的のモノ自体は見つからなかったわけだが、知れる事も多かった。
───例えば、
「お前が当時何を考え、悩んでいたか……とかな」
「悩み……?」
「恐らく二人がお前をこちらに引き込もうと決意したのも、それがあったからだと思うぜ」
まぁ、今のお前じゃ覚えてはいないだろうがな。
そう言うとレジウィーダは不貞腐れたように頬を膨らませた。
「仕方ないじゃんよ」
「そうだな。強いて言うなら、陸也………いや、オレのせいかもな」
しかし結局のところ、《記憶》を排除したのはグレイなのかトゥナロなのか。卵と鶏の論争並みに答えは出ないのかも知れない。
「……これ以上はやめとくか?」
そう問いかけるとレジウィーダは一瞬だけ悩んだ後、首を横に振った。
「ううん、聞きたい。それで最終的には、どうなったのか」
トゥナロは頷いた。
「フィーナ達は結果的には異世界を渡る方法を見つけた。一つは第七音素の破壊と再構築による歪ませる力。そしてもう一つはこの世界と繋がりのあるもう一つの世界への物的な痕跡」
その二つが揃っていて、且つ一番効率の良い方法があった。それは……
「ローレライの祝福(第七音素)と陸也としての記憶(異世界との繋がり)、それを持ったオレ(トゥナロ)を殺し、世界を超える為の場所(門)をこじ開ければ良い」
レジウィーダ、とトゥナロは彼女を見上げた。
「ここまで答えが出た時、あいつらが次にとった行動はなんだったと思う?」
トゥナロの脳裏には、吹雪く雪山と二人の少女が思い出される。
過ぎた希望《夢》は人をおかしくするには十分で、しかもそれが喉から手が出るほどまでに欲しかった物として目の前にあるのならば……時には手段など選ばない。
問われたレジウィーダは息を飲んだ。それから震える声で恐る恐る口を開いた。
「まさかだとは思うけど………………あなたの事を、殺したのか?」
「ま、大きく言うとそんな感じだな。正確には、この精神を保つ為の器を壊された───ってのが近いのかもな」
だから前に訊かれた霊魂って言うのは半分正解で、半分は間違いだ。
「元々、生きているとも言い難い存在だからな。残念な事に、上手いこと精神だけが残っちまったから………こうして中途半端に留まってしまっているんだけどよ」
「そんな………でも、トゥナロさんは確かにここにいるよ。触る事だって出来たし」
「そりゃあ、ローレライと繋がりがあったからな。最初よりは脆いが、もう一度第七音素を注げば一応形にはなるさ」
「トゥナロさん……」
憐れんでいるのか、それとも哀しんでいるのか。流石に茶化したりする様子もなく眉を下げるレジウィーダにトゥナロはフッと笑った。
「そんな顔をするなよ。オレは、もう一度お前らに会えて良かったって思ってるんだぜ? ローレライの野郎は無茶振りしてくれてるが、お前もあの三人も、必ず元の世界に帰れるよう協力してやる………だから、それまでにはもう少し、可愛い顔が出来る様になっとけよな」
「は? な、何言って………それにそれだとトゥナロさんは───」
レジウィーダが次に言うべく言葉を紡ごうとすると、目的地の到着を知らせる声が艦内に響き渡った。それから直ぐに神託の盾兵に呼ばれてしまい、それ以上の話を続ける事が出来なくなったのだった。
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