A requiem to give to you
- 馳せる追想、奏でる回顧・前編(5/6) -



N D2012。ローレライデーカン・△・○の日。

預言士の仕事でケテルブルクへ行く事になりました。ヴァン様が口利きをして下さったようで、………も護衛の一人として着いてきてくれるようです。

ケテルブルクは『異次元エネルギー』について関連がある場所らしく、今回の仕事は非常に有難いものです。着いたら知事にも許可を取って、色々と調べてみたいと思います。

………も同じ気持ちのようで、いつになく張り切っています。それがちょっとおかしくて笑っていたら髪の毛をグシャグシャにされてしまいました。

───

N D2012。ローレライデーカン・△・□の日。

預言士の仕事の合間に知事のオズボーン伯爵より許可を頂き、『異次元エネルギー』の提唱者であるネビリム氏の研究資料を見せていただきました。

どうやら彼女は、この世界とは異なる時空を超えた存在と会ったことがあるようです。そしてその存在はオズボーン伯爵も知る人物でもあったようですが、現在はこの世界にはいないとの事でした。

その存在は、『時空の魔術師』と呼ばれているそうです。その名の通り、その存在は次元を超え、時すらも操る力を持つ───まさに私達が今必要とするモノでした。

どうにかしてその存在に会えないだろうか。そして、私達の願いを叶えてもらいたい。

特に………はその願いがより強く、何としても、どんな手を使ったとしても『時空の魔術師』に会う術を見つけようと熱が入っていました。

そう、私達は死にたいわけじゃない。ヴァン様の計画に反対はしないけれど、だけど滅びる《未来》を選ぶよりは、やり直す《過去》を私達は選びます。














「人の日記を読むとは、わっるい奴だなァ」



そんな声と共に手に持っていた日記の上をモフモフが埋め尽くす。急な重さに思わず手を離してしまい、バタンと日記がテーブルに叩きつけられる音が響いた。



「ちょっと、急にびっくりするじゃんかー」



ムッとして目の前のモフモフことトゥナロを睨むと、彼は悪びれる様子もなく「気付かない方が悪い」と流した。



「それより、いつの間にこんな物を持ち出してたんだよ?」

「いつって……ユリアシティから戻ってきて直ぐにダアトに寄ったから、その時かな」

「逆によく持ち出せたな」

「まぁ、」



不在でしたし。

そう言うと「ただの泥棒じゃねーか」と突っ込まれ、事実なので言い返せなかった。



「あ、後で返す予定だったし……」

「その自信は?」

「全くないっすね」

「ダメじゃねーか」



バシッと猫パンチならぬライガパンチが額に飛んできた。そこまで痛くはないが、そこそこの衝撃はある。

トゥナロは日記の上から退き、開き放しのページを見ると「あぁ……」と納得したような声を出した。



「この辺りか」

「? 何か知ってるのか?」



気になりそう問うと、トゥナロは日記を差し「次のページを捲ってみろ」と促した。

それに「結局アンタも見るんじゃん」と突っ込みながらも捲って読むと……



















そこにはフィーナとその姉───アリア、そしてトゥナロとの出会いについてが記されていた。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







N D2012。ローレライデーカン某日。およそ一年前に、トゥナロはこの世界に来た。

体を持たず、《記憶》と言う所謂精神だけの状態で彷徨っていた所をローレライに拾われ、奴のやらかした事の経緯を聞いた。

その罪滅ぼしなのか、それとも奴が喚んだ《時空の魔術師》と同じ世界から来た彼だったからなのか、ローレライはいずれ再び彼女を喚ぶ為にと、トゥナロに第七音素で肉体を与え協力を願った。

正直、「ふざけンじゃねェ」と吐き捨てたい気持ちで一杯だったが、もう何も失う物もなかった彼はその言葉を飲み込み、いつかまた彼女に会えるのならと……その話を渋々承諾した。

次に目覚めた時は、暖かい気候の風とさらさらの砂、そして波の感触があった。そこで彼は拾われ、ダアトで住む事となった。

第七音素のせいなのか、元の体では黒かった筈の目と髪は星のような輝く金色に変わっていて、初めは慣れなかったし、何よりも……もう《坂月 陸也》ではないのだと実感させられて悲しかったのを覚えている。

しかしこれは半分は自分のせいでもあったから、誰にも文句はつけられない事もわかっていた。

何だかんだと一年も経てば慣れてくるもので、トゥナロがダアトに住み始めて直ぐに就任した新しい最高指導者に強制的に入団させられた騎士団で揉まれながら、漸く上司に文句を垂れる余裕を持ち始めていたある日に、その姉妹は彼の前に現れたのだった。



「初めまして、同じ拠点で活動を共にしているミリアリア・ソール・レンテルです! お気軽にアリアとお呼び下さい」

「妹のシルフィナーレ・マーニ・レンテルです。私は神託の盾ではありませんが、預言士をしています。……長いので、フィーナと呼んで頂ければ幸いです」



そっくりな双子の姉妹。この双子こそ、その後のトゥナロの人生を大きく揺るがす存在となったのだった。
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