A requiem to give to you
- 馳せる追想、奏でる回顧・前編(4/6) -



それからイオンに到着までは隣の部屋で待機するよう言われ、素直に移動したレジウィーダは備え付けの簡易ベッドにダイブした。



「はぁ………何だかなぁ」

「やたらとデカい溜め息だな」



そう言ってベッドの側までやってきたトゥナロはレジウィーダの顔を覗き込む。今でこそその正体がわかっている為、何だか急に気恥ずかしくなり慌てて起き上がると「ちょっと」と文句を口にした。



「何普通に入ってきてるんだよ」

「今は幼気な仔ライガだから問題ないだろ?」

「中身成人男性の癖に何をしゃあしゃあと。……大体、何でトゥナロさんまでここにいるんだ?」



そう、何故か彼はイオンに連れられていくレジウィーダに何食わぬ顔で着いてきたのだ。どうやらアリエッタのオトモダチだと思われたようで(外身だけなら間違いではない)、船に乗り込んでからも特に他の兵士からの言及もなく彼は自由にしていた。

流石に人前では人語は話せなかったようで大人しく普通のライガのフリをしていたが、今なら自分以外は誰もいないので思い切って聞いてみたが……



「別に特に理由はないな」

「ないんかい」



あっけらかんとした回答に思わず突っ込む。しかしトゥナロは気にした様子もなくのんびりと欠伸をして後ろ足で耳の裏をかいていた。



「なんか、ライガが板についてきたんじゃない?」

「ハッ、冗談じゃねェ」



戻れるならとっくに戻ってるわ。

そう言う彼の言動は全くもって一致しておらず、実は現状を楽しんでいるのではないかと疑ってしまう。

本当は彼にも色々と聞きたい事があるのだが、何となく……今はあまり踏み込んだ話はしたくなかった。

彼はグレイの失った記憶そのモノだから、その話になれば必然的にグレイ自身の話にも繋がるだろう。周りには誤魔化したとは言え、先日のやり取りがあったばかりなのもあり、今は彼の事は考えたくない。

レジウィーダは自由にベッドで寛ぎ始めたトゥナロをそのままに近くの椅子に座ると、鞄から日記を取り出した。

最近は忙しくて読めていなかったから、ダアト到着までまだ時間もかかるだろうと日記を開き続きを読み始める。



N D2012。シャドウデーカン・×・△の日。

………と共にダアトのローレライ教団へと入団しました。どうやら私には預言士の才があったようで、これから毎日訓練を行うとの事です。

………は譜術の才に長けているとの事で、併せて神託の盾騎士団の入団もするようです。

生まれてから何をするにも一緒だった私達が、初めて違う道を選んだ瞬間だと思いました。ですが目指すところは変わらない。

少しだけ寂しくもありましたが、いつでも近くにいるのがわかっていたので、それぞれのやりたい事を始めたいと思います。

───

N D2012。ルナリデーカン・○・△の日。

今日は、ヴァン様と一緒に秘預言と言う物を詠みました。本当は入団して数ヶ月の私が見れる代物ではありませんでしたが、ヴァン様が特別に許可を取って下さったそうです。

詠んだ内容は、私達が最も知りたかった故郷が無くなった年の事でした。ヴァン様の言っていた事は本当でした。

どうやら私たちの故郷は、無くなるべくして滅んだのです。そこにいる人々には、何も知らせぬまま。

父と母に昔のような笑顔で暮らして行けるようにと始めた事ですが………どうしてでしょう。もう二度と、昔のような幸せは訪れないような気がしてなりません。

ヴァン様もそんな私を気の毒に思ったのか、何も言わずに側に着いてくれていた事だけが救いだったのでしょうか。

一人であったのなら、きっと私はどうにかなっていたのかも知れません。

………には、初めは黙っておこうと思いました。ですが、流石は姉ですね。私の異変には直ぐに気付かれてしまい、私が今まで抱えてきた事を全て話す事となってしまいました。

………は、それはもう怒っていました。この世の中に、理不尽だと。それから、何で直ぐに話さなかったのだと私を怒りました。

話していく中で自然と涙が溢れた私を抱きしめて、「辛かったね」と頭を撫でてくれました。

………がいてくれて本当に良かったと、この時ほど思ったことはありませんでした。

───

N D2012。ルナリデーカン・○・○の日。

ヴァン様から、私達に一つの提案を持ち出されました。

共にこの理不尽で身勝手な世界を変えないか、と。預言をこの世界から排除しないかと……そう言いました。

具体的な事としては、レプリカと言うフォミクリーの技術を用いるそうです。

詳細はここには書きませんが、その内容は……あまりにも、想像を絶するモノでした。

私達は死にたいわけではありません。家族にも、いなくなってほしいだなんて願わない。だけど彼の啓示したそれは、謂わば人類の死とも言えるでしょう。

私達は直ぐには頷けませんでした。少しだけ考えさせてほしいと、もう少しだけ……世の中を見て、それから判断したいと回答を先送りにしました。

それから………と話をして、取り敢えずは『異次元エネルギー』について調べる事にしました。

もし、本当にこのエネルギーが存在するのなら、やり直す機会を得られるのなら───賭けてみたい、そう思ったのです。
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