A requiem to give to you
- 馳せる追想、奏でる回顧・前編(3/6) -



ふむ、とクリフは顎に手を当ててフィリアムを見た。



「前から思っていたのですが、貴方って損な性格ですよね」

「そうかな?」



今一つ実感がわかなくてそう返すと、力強く頷かれてしまった。



「だってそうでしょう。いつも静かなんですもの。初めてお会いした時なんかあまりにも何も言わないから、感情がないのかと思いましたよ」

「え、と……」

「何も考えてないのかと思いきや、急にレジウィーダを本気で殺そうとするし」



その言葉にアリエッタが「え」と驚いたようにこちらを見るが、クリフは構わず続ける。



「最近なんてしょっちゅう情緒不安定みたいじゃないですか。貴方の諸事情は知るところではありませんけどね、言いたい事があるなら普段からもっと言えば良いんですよ」

「そんな事言われても……」

「別に胸の内を全部話せとは言ってませんよ」



そう言ってクリフは再び肩を竦める。



「単純な事です。嬉しい、楽しい、悲しい、ムカつく、寂しい………何でも良いんですよ。その時に思った事をもっと口に出してみてはどうです? そうすれば少しは気持ち的にも違うと思いますけどね」



何なら行動で表して発散するのもありですよ。

楽しげにそう言うと今度は鞭が出てきたが、それも再び押し返した。それにどこか残念そうにしながらも鞭を懐に仕舞い込むと、クリフはフッと笑った。



「ま、何にしても。言いたい事一つ言えないのなら、いっそ居場所や在り方を変えるのも一つの手ですけどね」

「居場所や在り方……」

「……とある人の実体験らしいですが、気持ち一つ言葉に出来れば世界や人の見方が変わるみたいですよ。───貴方が貴方らしくいられる。そんな場所が、人が………貴方にも見つかると良いですね」



そう言ったクリフは今までで一番真っ直ぐで、優しい雰囲気をしていた。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







ダアトへと向かう連絡船。レジウィーダはトゥナロを膝に乗せながらとても気まずそうに座っていた。



(うーん………どうなってんだコレ??)



思わずチラリと向かい側を見ると、この微妙な空気感が気にならないのかイオンがのんびりと用意されたお茶を飲んでいた。

視線に気付いたらしく、イオンはこちらを見ると首を傾げた。



「飲みませんか? このお菓子も美味しいですよ」



そう言って柔らかい笑顔と共にお茶と一緒に出されたお菓子を差し出された。それに思わず苦笑が漏れた。



「いやぁ……流石に今はちょっと食欲がない、かなぁ??」



特にお茶の方は、イオンはともかくとして自分の方は何かされていないとも限らず、どうにも手を出すには気が引けた。

───それよりも、だ。



「イオン君」

「はい、どうしました?」

「いやねー。どうしてあたしまで君と一緒にダアトへ向かっているんだい?」



そう、何故かレジウィーダは今イオンと一緒にモースが連れていた神託の盾騎士団と共にダアト行きの船に乗っている。

ケセドニアで突然アニスに導師守護役を解任する命を出したかと思いきや、直ぐにルークの側に着き連絡係をするよう命じていた。そこはまぁ、己が離れるのだから状況を知る為にも必要だったのはわかる。

だがしかし、その直ぐに新たに出された命には誰も理解が追いついていなかった。



『アニスに代わり、臨時でレジウィーダを僕の護衛として任命し、共にダアトへ連れて行きます』

『はいぃぃっ!?』



その後は有無を言う間も無く引き摺られるようにして船まで連れられ、護衛だからと一先ずイオンと同じ部屋に入れられた。(一応男女であることは考慮してもう一部屋隣に用意してもらっているが……)

そんな事を思い返しながら問うと、イオンはお菓子を出していた手を引っ込めてから真剣な表情で口を開いた。



「アニスがいない今、僕の周りにはモースの手の者しかいません。表立ってどうにかしてはこないかとは思いますが、何があるかはわかりませんので、念の為について来てもらいました」



でもそれは、別に自分でなくても良いのではとも思う。況してやレジウィーダ自身、保留とはなっているが今は退職届を出している身だ。しかも一年以上も業務についていない者を護衛としてつかせるだなんて、流石のモースもいい顔はしていなかった。

しかしそこは流石導師。一般市民も見ている場では最高指導者である彼に意見する者はおらず、モースも暫し悩んだものの最終的には渋々承諾したのだった。

幸いなのはモース自身はキムラスカへと向かった為、現在は一緒にはいない事だろうか……世界情勢的には大変よろしくはないが。



「───と、言うのはあくまでも建前です」

「ん?」



コロッと表情を変え、いつもの優しげな笑顔を見せたイオンは、次いで少しだけ申し訳なさそうに眉を下げた。



「……本当は、心配だったんです」

「心配?」



そう聞き返すと、彼は小さく頷いた。



「何だか、皆と一緒にいるのが…………辛そうに見えたので」



その言葉に途端に心臓を掴まれたような感覚がした。



「そ、んな事は………」

「貴女が彼らを嫌っていないのはわかっています。───だけど今は、少しだけ距離をおいた方が良いのかなと思いまして………つい、連れ出してしまいました」

「……そっか」

「お節介ですよね。……無理を強いてしまいすみません」



暗雲が立ち込めそうな程悲しげに表情を暗くし始めたイオンにレジウィーダは慌てて手を振った。



「いやいやいや! 落ち込まんでよ! 別にイオン君は悪くないし………。確かに最近、あたしも皆との空気を悪くしちゃってたってのは自覚してたからさ。寧ろ助かったって言うか……その、」



心配をかけさせるつもりはなかった。イオンにも、皆にも。だけど───



「ありがとう」



少しだけ、安心したのも本当だった。

きっと、あのまま皆と居たらいずれ気持ちが抑え切れなくなっていたかも知れない。お互いに傷付いていた可能性もある。そう考えると、確かに今は距離が必要なのかも知れない。

それイオンを言うと、彼は安堵したように息を吐いた。
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