A requiem to give to you
- Unforgettable words(7/7) -



「レジウィーダにグレイ!?」



ルークが驚きの声を上げるが、二人は聞こえていないらしくトゥナロを振り回し続けている。



「ねぇちょっと! 無事!? 怪我とかしてない!?」

「オイ馬鹿、あまり振るンじゃねェ! よく見れねーよ!」

「アンタは黙ってて! てか、喋らないけどちゃんと魂入ってる!!?」

「取り敢えず手を止めろこの大馬鹿コンビがっ!!」



言葉にするならガブリ、と音でもしそうなくらい豪快にトゥナロはグレイの頭に噛み付いた。数秒の間もなくグレイは悲鳴を上げながらトゥナロを引き剥がした。



「いっっってェエェェェェッ!!? 何すンだこの害獣!!」

「オレ様の繊細な体を雑扱った罰だ!」

「ライガの体に入ってる癖に何言ってやがる!」

「いや、いずれにしてもアリエッタにバレたら殺されるぞ」



成り行きを見守っていたヒースが堪らず突っ込むと、漸くレジウィーダは彼らの存在に気が付いた。



「あ、ヒースちゃん達!」

「遅いわよ。そもそもトゥナロを見つけた時点で気付きなさいよ」



あなた達もいつまでも戯れあってるんじゃないわ、とタリスは弓でグレイとトゥナロの頭を一回ずつ殴った。

そうしている内にジェイド達もこちらに走ってきて、ルーク達を見て驚きの声を上げた。



「ルーク? 何故ここに………停戦はどうしました?」

「あ、それが…………」



ジェイドの疑問は正しく、本来ならばここにいる筈がないのはこちらの方だ。ルークはティア達と共にカイツールであった出来事と此処に来るまでの経緯を説明した。

漸く落ち着いたグレイ達を含め一通り説明を聞き終えると、ジェイドは難しい顔をした。



「そうでしたか。……まぁ、スムーズに行くとは思ってはいませんでしたが」

「何にしても、今は急いでアルマンダイン伯爵に会いに行かないとな!」



ガイの言葉に全員が頷き、それから直ぐに市場の中央に敷かれた国境付近へと向かった。

目的の人物は直ぐに見つかり、ルークとナタリアはワイン色の軍服を身に纏った体格の良い男の名を呼んだ。



「アルマンダイン伯爵!」

「ルーク様、ナタリア殿下!?」



アルマンダインはルーク達を見て表情を驚愕に染めた。ナタリアは構わず怒りを露わにして彼に詰め寄った。



「わたくし達が命を落としたのは誤報であると、マルクト皇帝ピオニー九世陛下から一報があった筈ですわ!」

「し、しかし……実際に殿下への拝謁は叶わず、陛下はマルクトの謀略だと……」

「わたくしが早くに城へ戻らなかったのは、わたくしの不徳の致すところ。しかしこうしてまみえた今、もはやこの戦争に義はない筈。直ちに休戦の準備にかかりなさい!」



ナタリアの言葉に、周りの兵士らを含めアルマンダインは戸惑う様子は見せるも、直ぐには動こうとはしなかった。

それに違和感を覚えながらもナタリアが更に言葉を募ろうとした時、不意に第三者の声が割って入った。



「偽の姫に臣下の礼をとる必要はありませんぞ」



そう言って現れたのは大詠師モースだった。モースは部下を伴い、ゆったりとした足取りでこちらへ来ると、ナタリア達を見下したように嘲笑した。



「無礼者! いかなローレライ教団の大詠師と言えども、わたくしへの侮辱はキムラスカ・ランバルディア王国への侮辱となろうぞ!」



ナタリアの叱責に、しかしモースは憐れむように首を振るだけだった。



「可哀想に……まだ自分の立場をわかっていないとは」

「どう言う事だ!?」



ルークも前に出て吠えるように問う。



「偽の姫に偽の子爵よ。今一度自分らの立場を思い返してみよ。貴様らには王族としての血も、資格もありはしないのだと」



それだけ言うとモースはそれ以上答える事なくアルマンダインを促す。



「伯爵、そろそろ戦場へ戻られた方がよろしいかと」

「……そうだな。───行くぞ!」



アルマンダインは部下に命じ、共にその場を去ろうと踵を返す。そんな彼の背にナタリアとルークが叫ぶ。



「お待ちなさい!」

「そうだよ! このままじゃ戦場が崩落するんだぞ!」



二人の声が聞こえたかは定かではないが、アルマンダインが足を止めることはなかった。

残ったモースはそんな二人の言葉を蔑むように「それがどうした」と返した。それにはルーク達だけでなく、他の仲間達も驚愕に言葉を失った。



「戦争さえ無事に発生すれば、預言は果たされる。ユリアシティの連中は、崩落如きで何を怯えているのだ」

「大詠師モース……なんて恐ろしいことを……」



信頼していた上司の言葉に怒り、そして悲しみに漸く絞り出したティアの声にモースは彼女を冷ややかに見て返した。



「恐ろしいのは、お前の兄であろう」



そう言い捨てると、モースは今度はイオンを向いた。



「導師イオン。この後に及んでまだ停戦を訴えるおつもりですか?」

「いえ、私は一度ダアトに戻ろうと思います」

『え!?』



予想もしなかったそんな彼の言葉に彼の側近であるアニスですら驚きに目を見開いた。しかし間髪入れずに返したことから、元々そのつもりだったのかも知れない。



「帰国したら、総長がツリーを消す為にセフィロトの封印を解けって言ってきますよぅ!?」

「流石にこれ以上、外殻の崩落を狙われては少々面倒だ。ヴァンにはもう勝手な事はさせぬ」



モースが苦々しくそう言うが、全くもって安心も信頼も出来ない。アニスは心配げに更に続ける。



「で、でも……力づくで来たら?」



そんなアニスに、イオンは優しく微笑んだ。



「その時は、アニスが助けてくれますよね?」

「………ふへ?」



ぽかん、と虚を突かれたように目を丸くするアニスにもう一度笑いかけると直ぐに表情を引き締め、導師としての命令を下した。



「───唱師アニス・タトリン。
















只今を持って、あなたを導師守護役から解任します」











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