A requiem to give to you- Unforgettable words(6/7) -
グレイはアニス、ジェイドと共に先を行くレジウィーダを見た。
先程は笑って誤魔化されたが、ジェイド達が割って入る直前のあの言葉を撤回しないあたり、恐らく本気なのだろう。
本心、かはわからないが、思った以上に深刻化している現状にグレイは内心焦っていた。
(一体、どうすりゃあアイツに伝わるンだ?)
別にレジウィーダ自身の事は決して嫌いではないのだ。ケテルブルクでも彼女に伝えたように、レジウィーダもまた他の二人と同じく手放したくないほど大切な存在だ。
今はない、無くした記憶に伴う感情とは別にしても……それは変わらない。
しかし彼女の言い方としては、彼女自身への好感情を全て消したいと言っているようだった。そんな事に、一体何の意味があると言うのだろう。
(いずれにしても、記憶が云々いうよりも先にこっちを止める方が良いかも知れねーな)
そう思いながら溜め息を吐いてると、隣りを歩いていたイオンが何やら考え込んでいるのに気が付いた。
「導師?」
呼びかけると「え?」と顔を上げてこちらを見、それから苦笑を浮かべた。
「ちょっと、考え事をしていました」
「それは見りゃわかる……レジウィーダの事か?」
「あ、はい。……思いついた事があるので、近い内にちょっと実行してみようかと」
何やらイオンなりにやりたい事があるようだが、あまり悪いような気もしないので取り敢えず「そうか」とだけ返しておく。
すると今度はガイが「そう言えば」と疑問を口にした。
「さっきの二人の言い合いの中で気になってた事があるんだが……
トゥナロって、誰だ?」
その言葉に思わず「は?」と声が漏れる。レジウィーダを見れば、彼女もまた何を言っているんだと言いたげにガイを見ている……が、
「それは私も気になっていました。グレイと同じ力を持つ、と言っていましたが」
「え、ちょっとジェイド君何言ってるんだ? 冗談?」
「冗談? いえ、至って真面目なつもりですが……確かに聞き覚えはなくはないような気はしますが、しかし知り合いにはいなかったと思いますよ」
いつもの悪ふざけ、と言う感じではなさそうである。アニスとイオンも思い出せないのだろうか。ガイ達と同じように説明を求めるようにこちらを見つめてくる。
思わずレジウィーダと顔を見合わせる。しかし現状何か打開策が浮かぶわけでもなく、やがてレジウィーダがジェイド達を向いた。
「トゥナロさんは、タリスが仔ライガに憑依させて少し前から一緒に旅をしている仲間だよ。皆忘れちゃったの?」
「一緒に……?」
「ほら、ローレライの使者とか名乗ってたじゃん」
そう言ったレジウィーダの言葉に四人は考え込み、それから数十秒もしない内に合点の言ったように声を上げた。
「あ、……あぁ、そうだった! そう言えばいたな、そんな奴!」
「確かグレイにとっても声と喋り方が似てるんだったよね! やっと思い出したぁ」
ガイとアニスのそんな言葉に二人は安堵する。ジェイド達を見れば、そちらも無事に思い出せたようだ。
「なんで、今まで忘れていたんでしょう?」
イオンがそう言うと、ジェイドも「わかりません」と首を横に振った。
「彼が何かをしたのか、或いは彼自身に何かあったのか……」
「まさか、向こうで何かトラブルでもあったとか?」
「そうでない事を祈りてェところだけど、今は確かめようがねェ」
今のところ、グレイ自身には何も変化は起きていない。これが根拠になるわけでもないが、何となく……向こうは無事のような気はする。
「取り敢えず、日が昇ったらさっさとケセドニアに向かおうぜ」
「ええ……その為にも、今度こそちゃんと休んで下さいね?」
その言葉は言外に「次はないぞ」と言っているようで、レジウィーダと揃って頭を垂れるしかなかった。
*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇
「やっと、着いた……」
長い距離を隠れ、時に走りながら幾つもの昼夜を経て、ルーク達は漸くケセドニアへと到着した。
幸い直接的な戦闘は起こらず、またこちらを心配したキムラスカ、マルクト両国の将軍らに影ながら手助けをもらい何とか大きな被害が出る事はなかった。
そんな厳しくも優しい彼らに感謝しつつも、一行は急いでアルマンダインを探すべく休む事なく街の中を歩き出した……が、
「トゥナロさん!!」
「トゥナロ!!」
数分もしない内にタリス達の後を歩いていたトゥナロが背後から持ち上げられた。次いで聞こえてきたのは焦ったような聞き覚えのある声で、ルーク達がそれに振り向くと、そこにはトゥナロを雑に上下に振ったり触ったりするレジウィーダとグレイの姿があった。
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