A requiem to give to you
- Unforgettable words(5/7) -



だってその言葉は、どんな関係であろうとも相手を傷つける酷い言葉だってわかっているから。今も昔も、だけど……あの時はあまりの嫌悪感につい口を滑らせてしまったのだ。



「やっぱ、『スッゲェ気持ち悪い』?」

「………覚えてるのかよ」



とは言ったものの、己にその記憶が残っているのだとしたら、当然彼女も覚えている可能性は十分にあった。

言い方的に、相当根に持っているのだろう。見た所怒ってはいないが、過去の自分の台詞を違わずに言ってみせた彼女の表情は、またあの歪んだ笑みを浮かべていた。












全てを諦めたような、そんな悲しい笑み。



(オレは………こいつのこの表情が、一番嫌いだ。だって、)



それはまるで、昔の自分を見ているようだったから……───



「レジウィーダ、あのよ」

「何も言わなくて良いよ。事実だもん」



こちらが何かを言う前に言葉を被せられる。



「トゥナロさんには感謝しなきゃだね」

「? 何がだよ?」



どう言う意味かがわからず問い返すと、レジウィーダはニッコリと目を細めて笑った。



「だって、











アンタがあたしを嫌ったままでいてくれてるから」

「………………は?」



言われた意味が飲み込めず、思考が停止する。そんなグレイに構わずレジウィーダは続けた。



「正直言うとさ。フィリアムが持っているって言う記憶はあたしにとって必要の物だけど、アンタには……思い出して欲しくはないんだよね」



だって、そのままの方がアンタは絶対に幸せになれるから。



「アンタしかいないから言うけど、何だったらあたしに関する記憶は全部無くして欲しかったなって思うくらいだもん」

「なっ………」



今度はこちらが絶句する番だった。この少女は一体何を言っているのかわかっているのだろうか。



「多分、トゥナロさんもアンタと同じ力が使えると思う。だから、やる事がある程度落ち着いたら今度こそ───」

「───それ以上言ってみろ。……その減らず口を引き裂いてやる」



明確な怒り。だけど感情はどこまでも静かで、声を荒らげる事もなく淡々と言葉をぶつける。

しかしそんな己の感情さえも、レジウィーダには届かない。



「やれるなら、やってみせてよ」



そう言って笑う彼女についに感情が抑え切れなくなりカッとなる。



「テメェ、良い加減に───」

「良い加減にするのはあなた達二人共です」



───スプラッシュ



突然の第三者の声共にグレイ達の頭上から大量の水が降ってきた。



「がぼぼぼぽっ!?」

「ぐっ!? ……ぶはっ、!」



慌てて溺れかけているレジウィーダの腕を掴んで引き上げ、水が退き始めている地面へと上がるとそこには………満面の笑みを浮かべたジェイドが仁王立ちをしていた。その後ろではオロオロと成り行きを見守っているイオンとガイ、そして先程別れたはずのアニスまでいた。



「あなた達、先程の言葉をもうお忘れですかぁ????」

「いや、その前に普通に譜術ぶっぱすンなよ殺す気か!?」

「いやぁ、何だかお二人とも大変熱くなられているようでしたので、ここは一発冷やしておこうと思いまして」



まぁ、別に死ぬような威力ではないので安心して下さい。

そんな語尾にハートでも付きそうな声色で宣われ、思わず寒気がした。

そしてここまで何も言わないレジウィーダに気が付き、ふとそちらを見ると……全身を震わせていた。



「オ、オイ。大丈夫かよ?」

「…………












ぷ、くくくっ………あっはっはっは!」



突然笑い出し、グレイを含めその場にいた者たちはポカンと固まった。



「え、何? 大佐の譜術を喰らってついに頭がおかしくなっちゃった?」



引き気味にそんな事を言うアニスにレジウィーダは笑いが収まらぬまま「違う違う」と否定した。



「ははは、いやー……こんなにも上手くいくとは思わなかったなって」

「何がだよ」



その問いにレジウィーダはこちらを向くと、悪戯が成功したようにニヤリと笑った。




「さっきの仕返し」



さっき、とは先程目の前の少女を弄った時の事だと言うのは直ぐにわかった。───どうやら、してやられたらしい。



「テメェと言う奴はよぉ……っ!」

「そーんな怒るなって! アンタだって人の事揶揄ったんだからおあいこだよ、おあいこ」



ふふん、と勝ち誇ったように笑うレジウィーダは、先程のような歪さは感じられなかった。

しかしどうにも腑に落ちない感じが残るが、これ以上揉めればいよいよジェイドが槍を出し始めかねないと思い、仕方なくこの話は一先ず終わりにした。



「そーかよ……ったく、無駄な時間を過ごさせやがって」

「あたしは久し振りに楽しかったけどな」



さっきと逆だね、なんて言うレジウィーダに何だかムカつき、最後に一発だけデコピンを飛ばす。



「痛いんだけど!?」

「痛くしてンだよ、ばーか!」

「お前らなぁ……」

「隠れているとは言え、ここが戦場だってことを忘れていませんか?」

「て、言うかエンゲーブの人達が心配ですから早く戻りましょうよぉ」



アニスの尤もな言葉に全員が頷き、漸く元来た道を戻り出した。
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