A requiem to give to you
- Unforgettable words(4/7) -



「要するに、オレもまだ死にたくねーンだよ。だから共犯ってことで今はお互い黙っておくのが吉だろ?」



ま、オレの場合はジェイドに突っ込まれた時点でゲームオーバーになるけどな。

自嘲気味に笑うとアニスは緊張の面持ちから一転。呆れたように肩を落とした。



「お気楽……」

「何とでも言え」



(ま、こいつの場合は最悪手がない訳じゃねーけどな)



彼女の言う”契約”が金銭で何とかなるのなら、金額次第ではどうにかなるかも知れない。例え己一人では足りなくとも、やりようはいくらでもある。

後は……アニス次第になるのだろう。



「オラ、わかったらとっとと寝床に帰れよ。導師だって一人置いてきてるんだろ?」

「わ、わかってるよ!」



イオンの事を出せば流石にそれ以上何か言い返す事はなく、アニスは足速に元の場所へと帰って行った。

誰もいなくなった空間で、グレイは苦々しげに溜め息を吐いた。



「ンっとに、気分悪くなるゼ」



ルークやアッシュと言い、アニス、ナタリア、タリス………そして恐らくレジウィーダも。今現在己が知る限りで親によって振り回されている奴らだ。後は、親ではないがある意味ではティアも該当するのだろう。

それぞれが違った理由で理不尽な事に巻き込まれたり、謂れのない烙印を押されたりする。特にルークやナタリアに関しては、その裏事情を知れば知るほど吐き気すら出てくる時があるくらいだ。

正直、眠れない理由は大部分がそこにある。アクゼリュス崩落後から少しずつ、そしてヒースからセントビナーでのレジウィーダの話を聞いた時からはまともに眠れていない。

今のところ動きに支障がそこまで出ていないから良いが、このままではいけないのもわかってはいる。

だけど……彼らの事情を顧みれば見るほど、思い出すのは何度も悪夢にも出てくるとある女性の言葉だった。



『ニセモノ』



……………。




「───何、してるんだ?」



不意に背後から聞こえてきた声に思考が浮上する。先程のアニスほどではないが、驚きのあまり直ぐに反応が出来なかった。

少しぎこちなさが抜けないながらもゆっくりと振り返れば、そこには訝しげにこちらを見つめるレジウィーダが立っていた。

レジウィーダはグレイが振り向いたのを認めるとサッと表情を変えた。



「? 何か顔色悪くない?」



具合でも悪いのか、とどこか心配げに問われた言葉にどう答えようかと考え、直ぐにそれを霧散させて首を横に振った。



「……別に、何でもねーよ」

「そう……。それより、さっきアニスを見かけたから声掛けたけど、アンタもジェイド君に見つかるとまたドヤされるから早く戻りなよ」

「それを言いに態々探しにきたのか?」



意外だと言わんばかりに問えば、返ってくるのは予想通りの不服そうな声だった。



「あんだけ釘刺されてるのに全く聞こうとせずにフラついてる人が何人もいたら、連帯責任でこっちまで被害を被るだろ」



アンタの事であたしまで怒られるのは嫌なんですー。

そう言ってむすっとするレジウィーダ。いつもだったら同レベルにキレたり、そうでなくとも何かしら言い返しているところだが、何故だかそんな彼女を見て浮かんだのは───安堵だった。

久しくしていなかったが、自然と口角が上がる感覚がした。



「───そっか」



そう、一言だけ返すと何故か驚愕した顔で距離を取られた。失礼すぎるだろ。



「オイ、なんで下がンだよ」

「え、いや…………何で怒られてるのに笑ってるのかなって………アンタそう言う趣味でもあったっけ?」

「ほーう? 笑顔は幸せの象徴なんだろ? だから笑ってやったってのに失礼な奴だなァ?」



失礼な言葉を連発するレジウィーダに嫌がらせの如く嫌味に笑いながら近付けば、案の定彼女は「ぎゃあ来るなバカぁぁっ!」と悲鳴を上げた。



「いや、何もしてねーし。つーか誤解を招きかねない悲鳴を上げるな馬鹿女」

「ならその顔やめろ! 鳥肌が立つ!!」



もう少し弄りたい気持ちもあったが、そろそろ他の奴らに気付かれても困るので足を止めスッと表情を戻す。



「はぁ、慣れない筋肉使ったら一気に疲れたわ」

「ならやるなよ」



即座に突っ込みが入るがそこは軽くスルーし、さっきのやり取りを得て思った事を口にした。



「でも、ちょっと楽しかった」

「……嘘じゃん??」



絶句したようなレジウィーダに、やはりこちらの方が良いなとふと思う。



「下手な笑い顔を浮かべるよりは、よっぽど良い顔してンぞ」



何だか今日はいつもよりもスラスラと正直な言葉が出てくる。先程までの息苦しさなどなかったかのように。

しかし目の前の存在にとってはなかなかそう言う風にはなれないらしい。グレイのそんな言葉にどこか傷ついたような顔をした。



「あたしって、そんなに笑うの下手かな? これでも学校じゃクラスのムードメーカーになってるんだよ?」

「自分で言うのかよ。……まぁ、第三者から見たら普通だけどな」

「アンタは違うって?」



その問いにも直ぐに答えようとしたが、出てこようとした言葉に思わず口をつぐんだ。
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