A requiem to give to you
- Unforgettable words(3/7) -



それからグレイ達も解散し、ジェイドとガイが交代で見張りに入る事となった。ここ数日はずっとこんな感じなのだが……グレイとしては朝までのこの時間が正直一番辛かった。

───その理由は簡単である。



「………眠れねェ」



取り敢えず横にはなるものの、最近はどうにも寝付けない日が続いている。

元々不眠気味なところがあり、夜に深い眠りにつきにくいのは自覚している。漸く眠れたと思った日には、大体夢見も良くなかったりするのだから余計にタチが悪いのだ。

そんなでも、少し前までは珍しくしっかりと眠れる日が続いていた。それが出来なくなった原因については、自分でも何となくわかっている。



「………………やっぱり無理だ」



暫くゴロゴロと寝返りを打っていたが、流石に何日もこの状態では逆に疲れると判断したグレイは面倒臭そうに起き上がると、ジェイド達にバレないようにそっとその場を抜け出した。



「あれは……」



それから周辺の警備も兼ねて散策をしていると、林の奥に見覚えのある後ろ姿が目に入った。

黒いツインテールに映える鮮やかな黄色いリボンと、小さい背中にぶら下がる不気味なぬいぐるみ。この暗がりにいるその様相にその場にヒースやティアがいたらビビりそうだと思いながらも気配を消してその存在に近付き、真後ろに来た瞬間に声をかけてみた。



「モグラも大変だな」

「!!???」



余程驚いたのだろう。最早声すら上げられぬ程に肩をビクつかせたその姿が少し面白かったのはここだけの話だ。



「……グレイ、かぁ」

「お子ちゃまは寝る時間だぜ、アニス」



こちらを振り返りどことなく安堵したように息を吐くアニスにそう言うと、目の前の少女は途端に不服そうに頬を膨らませた。



「グレイだって子供でしょ!」

「だとしても、見られたのがオレで良かったなァ? ジェイドだったら今頃拘束、もしくは最悪口封じ待ったなしだったかもな」

「ふ、ふーんだ! アニスちゃんはそんなヘマしませんよぉー」

「……あのな。オレだって今はこっち側なんだぞ。安心し切ってる場合じゃねーだろ」



恐らくはモース、もしくは六神将へと鳩を飛ばしていたのだろう。鳩を借りれた、と言う事は近くに神託の盾の臨時拠点でもあるのだろうか。だとしてもこちらの存在を認知してなお何かしてくるわけでもなさそうなので、その辺の追求は取り敢えず置いておく事にする。

しかし、だ。いくらアニスがモースの諜報員だという事を知っていると言っても、今の自分は奴らとは殆ど敵対しているようなものだ。先程の事をジェイドにチクったらとかは考えないのだろうか。

そんな思いを込めてそう言うと、アニスは一瞬だけ目線を泳がせてから苦しげに顔を顰めて口を開いた。



「そう思うなら、言えば?」

「言って良いのか?」

「寧ろこっちの正体がわかってて、何で今まで言わなかったのか不思議なくらいなんだけど」



こっちはいつ言われるかヒヤヒヤしてるってのに。

そう言ったアニスにグレイ自身も「確かに」と頷く。



「いや、別に庇ってるとかそう言う訳じゃねーンだけどよ」

「じゃあどう言う訳? 命綱握られて踊らされる姿を見て面白がってる?」



ずっと聞いてみたかったんだよね、と皮肉げに、しかし明らかな怒りと焦りを含んだその問いに否定を表す。



「お前がただ本当に自分の利の事を考えているだけだったら、とっくにジェイドに突き出してたさ。でも、何となくだけど………そう見えなかったから」

「っ、何言ってんの? あたしは最初からイオン様の監視役だよ。そう言う契約だもん」



どう言った経緯で幼くしてそんな契約を交わす事になったのか。詳しい事はグレイにもわからない。しかしそうせざるを得なかった要因に彼女の両親が関わっていると言うのは一応聞いていた。

そもそも、アニスの両親と言えばダアトでは有名だ………悪い意味で。会った事はないが、別に悪い人たちではないらしい。寧ろ善人の部類だと言う。

ただ、純粋すぎて騙されやすいだけ。簡単に騙されて、不良品や偽物を高額で買わされたり、あり得ない金額のお布施を集られたり、一種の保険詐欺のような事にも何度も引っかかってしまう。

きっと、彼女は何度も止めているのだろう。しかし聞き入れてはもらえない。悪意はなくとも、自分達の行動が身内にどんな影響を及ぼすかなんて、わかってはいないのだろう。

本当に………胸糞悪い。



「どの世界でも、自分の都合に子を振り回す親ってのは変わらねーな」

「…………」



言い返せないのだろう。ぐっ、と両手を強く握って震わせるアニスにグレイは肩を竦めた。



「何にしても、今のところは別に言い触らしたり、突き出したりするつもりはねーよ」

「何でよ?」

「逆に言って欲しいのか?」

「そうじゃないけど……」

「ま、どの道お前の事をチクったところで、元より実害出してる時点でオレも同罪以上だけどな」



それこそ何故か問われていないが、タルタロス襲撃にグレイは関わっている。個人で死者は出していないが、上司のやる事を止めるわけでもなかったので結局は同じだ。裁判にでもかけられれば二度と朝日を拝む事など出来ないだろう。
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