The symphony of black wind- 風の配達屋(2/4) -
「おっちゃんじゃねぇ!」
「あだっ!?」
せめて親父と言えっ、とダイクは怒鳴るとミライの頭に拳骨を落とした。
「いってぇー……」
容赦なく殴られた頭を擦り、恨めしそうな視線を寄越すミライにダイクは一つ溜め息を吐いた。
「ったく、ここ数日いなかっただけで随分と辛気臭くなったじゃねぇか。一体どうしたんでい?」
「いや……」
別に何も、とあからさまに顔を逸らすと再びダイクの鉄拳が落ちてきた。
「いってぇええっ!?」
「ドワーフの誓い第十一番、嘘吐きは泥棒の始まりでい!」
もう耳にタコが出来るくらい昔から聞き慣れたドワーフの誓いを持ち出したダイクは何故かガッツポーズを決めた。そんな彼を他所にミライは頭を抑え、のた打ち回りたい衝動を必死に抑えていた。
「うぉおお……いてー。同じとこを何度もバカボコ殴りやがってこのクソじj「何か言ったけぇ?」………いえ、なんでもないッス」
悪態を吐こうとしたミライだったが、三発目の拳を構えるダイクの姿に流石に押し留まった。
「さぁ、とっとと吐いてもらおうじゃねぇか。……………あ?」
ダイクがドスの利いた声でそう言いながらミライへと歩み寄ろうとした時、窓の外が一瞬強く光った。
「! 何だ!?」
驚きのまま慌てて二階へと駆け上がり、ベランダの外へと出たミライは驚愕のあまり絶叫した。
「何だありゃあ!?」
此処から見える森よりも海よりも更に更にずっと遠くの大陸に聳え立つ一本の柱。穢れなどないかのように真っ白なその柱は天高く真っ直ぐに伸びており、まるで天辺が窺えない。
「お、ありゃ救いの塔だ」
遅れて二階へと上がってきたダイクが窓の外を見て言った。その一言でミライは漸く合点がいった。
「救いの塔………そうか。じゃあ、今日がそうだったのか」
再生の神子が天の階を登るべく、天の使いより神託を受ける大切な儀式の日。そして、その主役たる神子コレットの16歳の誕生日。
「こうしちゃいられない!」
早く村へと行かなければ。そう思い立つや否、ミライは素早くダイクの横をすり抜け机の上に置いてある箱を手に取るとさっさと家を出た。
「おっちゃ……じゃなくて親父! 俺ちょっと村まで行って来るわ!」
「おう、遅くなんねぇ内に帰って来いよ
じゃねぇ!! 待ておまっ、まだ話は終わってねええええっ!!!」
ベランダからダイクの怒号が聞こえるが、あえて聞こえないフリをして走り出した。
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