The symphony of black wind
- 紅蓮の牙と処刑台・前編(4/4) -


「それにしても、まさかボク達の偽物がいるだなんて……」

「まぁ、世界を救う偉大な神子様ご一行だからなぁ……全世界に顔が知られてるわけじゃないから、取り敢えず名乗っておけば貢がれ放題で儲けもんだろうよ」



項垂れるジーニアスにミライがそう返すと、リフィルが溜め息を吐いた。



「ミライ、少しは言葉を選びなさい」

「でも、間違いではないだろ。村から殆ど出たことがなかったコレットの顔を知っている人なんて殆どいないんだ。偽物が出るなんて容易に想像できる範囲だぜ?」

「その容易に想像できるまでに人生経験のない者達が多い中で、少しでもそう思っていたのなら前もって仲間に伝えるとかして、予め何かしらの対策を取れたのではなくて?」



ミライの言い方が癇に障ったのか、リフィルは珍しく苛立ちを露わにしながらそう言い返した。それにミライもムッとして返した。



「何だよ、自分で気付けなかったからって何ムキになってるわけ? 俺だって想像はしていても、ここまで影響が出るなんて予測はしてなかったんだ。実際に目の当りにしてもいないのにそこまで思い至るかよ」

「一つの可能性について、最悪の状況を考えられない……やはり貴方は考えが足りないわ。それに少し短気なのではなくて? そう言うところがまだまだ子供なのよ」

「っ、なに………」

「ちょ、ちょっと二人とも!」

「落ち着けって!」



そろそろ雲行きが怪しくなってきた二人の様子にジーニアスとロイドが慌てて割り込んだ。



「良い大人がこんな所で言い争わないでよ。それに、偽物の可能性に気付けなかったのは、事実なんだからさ……」

「そうだよ。なっちまった物は仕方ないんだしさ、取り敢えず今は喧嘩よりも次にどうするかを考えようぜ!」



な、と明るく笑うロイドと泣きそうなジーニアスの顔を見てミライとリフィルはお互いに顔を見合わせた。



「そう……だな。二人の言う通りだよ。ごめん、リフィル」

「私こそ、大人気なかったわ。自分の事を棚に上げて……貴方に当たってしまってごめんなさい」



そう言って二人で謝ると、空気を入れ替えるようにロイドが両手を叩いた。



「よし! じゃあ、これからどうする?」

「再生の書には封印の場所に関するヒントが記されていると言う。闇雲に旅を続けるよりはスピリチュア像を探してあの老人に渡した方が、今後の効率としては良いのではないか?」

「わたしも、クラトスさんの意見に賛成です。それにスピリチュア像はマーテル教会にとっても大切な物だもの。このままには出来ません」



ロイドの言葉にクラトスとコレットがそう返すと、リフィルは地図を出して広げた。



「そうなると、次の目的地はソダ間欠泉ね。ただ、万が一スピリチュア像が間欠泉に落ちていた場合、取りに行くのは容易ではないわ。その時の対策を考えておかないといけないわね」

「間欠泉、かぁ……」



リフィルの言葉に全員で間欠泉をどうにかする為の方法を考えていると、突然小屋の扉が荒々しく開かれた。



「神子様!」



そう言って入って来たのは、パルマコスタ総督府でも何度か見かけた甲冑を纏った男性だった。彼はコレットの姿を見つけると素早く目の前まで来て「大変です!」と早口で言った。



「先日、神子様がお救い下さった『パルマツールズ』のカカオさんの一人娘のショコラが、ディザイアンに攫われて人間牧場に……!」

「何だって!?」



一番に反応したのはロイドだった。彼は直ぐに全員を振り返ると「助けに行こう!」と言った。それに男性は嬉々とした顔になった。



「おお、そうして下さいますか! 事は一刻を争います。ドア総督も直ぐに義勇軍から志願者を募り、救出に向かう故、出来ましたら神子様方には先行して頂けるとありがたい、と申しておりました!」

「ああ、任せておけ! 絶対にショコラを助けてやるぜ!」

「ありがとうございます! では、私は早速ドア総督にお伝えしてまいります!」



男性は踵を返すと、来た時よりは幾分か落ち着いた足取りで早々に小屋を去って行った。



「さあ、行こう!」



双剣を腰に挿し、勢いよく立ち上がったロイドの言葉にミライ達は頷いた。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







それからミライ達は直ぐに街道北東にある人間牧場へとやってきた。流石に正面から堂々と行く訳にはいかず、まずは近くの林に隠れて入口付近の様子を伺う事にした。



「入口には警備兵が数人、か。一気にぶん殴って突入しても良いけど、それで増援を呼ばれたらちょっと厄介だな」

「こちらは前衛、中衛、後衛で戦える者が二人ずついる。中の構造にもよるけど、捕らわれている人達の救出と、ディザイアンをぶっ飛ばしつつ誘き寄せる方でメンバーを分けて行くのも有りなんじゃないか?」



ロイドの言葉にミライがそう提案すると、リフィルも頷いた。



「戦闘になった際のリスクがやや高まるけど、効率としては良いのではないかしら」

「では、どう分ける?」



クラトスがそう訪ねた時、背後から控えめな声が聞こえてきた。



「皆さん……」



驚き、振り返ると、そこには総督府で会った副総督のニールと言う男だった。彼は辺りを酷く気にしながら静かにロイド達に近付くと小さく会釈した。



「ニール! ショコラの事聞いたぜ!」

「はい、その事で皆さんにお話があってまいりました……」

「「……………」」



只ならぬニールの様子にリフィルとクラトスの表情が険しくなる。それにミライも何となく嫌な予感がしてきたが、取り敢えず彼に話の続きを促した。



「話、とは?」

「………皆さんには、このままディザイアンと関わらずに人間牧場を去って頂きたいのです」

「! どういう事だよ!?」

「義勇軍と連携してショコラを助け出すんでしょ!?」



信じられないと言った様子でロイドとジーニアスがニールに詰め寄るが、彼はただ辛そうに表情を歪ませた。それを見てクラトスが、一つの推測を口にした。



「罠………か?」


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