The symphony of black wind
- 漣と自鳴琴(5/5) -


ミライは男達に「そう焦らないで」と宥め口調で言った。



「お客様。お帰りになられる前に亭主に何か言いたい事があるのでしょう?」



そう言うと、男達は「何もねぇよ!」と怒鳴った。



「寧ろ文句なら…………いってええええっ!?」

「何すんだコルァ!!」



男達は肩を抑えて怒鳴った。そんな彼らの肩にはミライの手があり、そしてその指は思いっ切り男達の肩に食い込んでいた。見ているだけで痛そうだ。そして何度も言うがミライはずっと笑顔だ。でもその笑顔は、いつもの爽やかさ……って言うか優しさなど微塵もなかった。ものすごく恐ろしげなオーラと言うか何と言うか、とにかくすごく恐かった。



「文句? ご冗談を。別に言いたい事があるのでしょう? 言いたいんでしょう? 言うんですよね? 言うんだよな? 言うよな? つーか

















言え」



最後のは最早命令だった。男達はそれにまた激怒するのかと思いきや、ミライの迫力に怖気付き、最後は情けなく半泣き状態でブンブンと首がもげるのではないかと言うくらい縦に振っていた。

それからミライは男達を足蹴にしながら、苦笑する亭主に何度も何度も土下座で謝らせ、更には料理の値段の倍のお金を支払わせたのだった。


接客業とは、お客様への思いやりと笑顔が大事だと言う。ミライは確かにあのお客へのかなり問題のある思いやりと笑顔を貫いた。だけどそれが本当に接客業の正しいやり方なのだろうか、と疑問に思った。













……絶対に違うと思う。素人のボクでもわかる。あれは接客業と言うより、只の恐喝だと。ただ食い未遂から恐喝で金を巻き上げる、ある意味すごい事をかなり大胆に彼は仕出かしたのだと改めて思った。それでも誰にも咎められず、寧ろ感謝されている。これは彼の計算の内なのだろうか? そう思うと何だかボクは友達が怖くなった。一体何を間違ってあんな大人になったんだろう?

やっぱダイクおじさんのせいなの? じゃあロイドもいずれああなるの? そんなのやだなぁ……本当になったらどうしよう……
















うわぁぁああぁぁ……



そうしてボクは暫くこのショックから抜け出せなかったのだった。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







次の日、ワインを持って男達の元へと戻ったミライ達は呆気に取られた。



『…………………』



何故ならば、彼らは昨日からずっとそこで待っていたらしかったからだ。その証拠に四人とも目の下に大きな隈を作って今にも倒れそうだった。……と言うか、昨日宿屋に行っていなかっただろうか。



「ワイン持って来た…………けど、お前ら大丈夫か?」



そんなミライの心境を余所に流石に心配になったらしいロイドが四人に訊ねると、リーダーの男が怒りと疲労により震える声で言った。



「………遅いわぁぁあぁっ!!」



そう怒鳴って男はコレットが手に持っていたワインを奪うようにしてもぎ取った。



「ア、アニキ」

「もう……行きましょう」



小柄で気弱そうな男と身綺麗でどこか気品が良さそうな青髪の少女がそう言うと、リーダーの男は「次は気をつけろよっ!!」ともう一度怒鳴り大股で去って行った。その後を気弱そうな男、魔術師のような女、そして最後に青髪の少女が続…………こうとして一度こちらを振り向いた。



「それではお元気で………配達屋さん」

「あー………うん、君らもな。マジで」



苦笑しながらミライはそう返して手を振ると、今度こそ四人は振り返らずに去って行った。それを見送ると、ジーニアスが訊ねた。



「知り合いだったの?」

「一応。まぁ、知り合いと言っても昔仕事で立ち寄った町で会っただけだけどな」



まさか旅をしてるとはなぁ、と何とも言えない表情でそう言うミライにロイド達はそれ以上聞く事はなかった。









しかし、この時彼らを黙って見送った事を後にミライ達は激しく後悔するのであった。












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『みんなのうみ』より一部歌詞引用しました。
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