The symphony of black wind
- 漣と自鳴琴(4/5) -


……と、言う感じでロイドが食料にお金を使い過ぎて旅の資金を0にしてくれたお陰で、今こうして皆でそれぞれの方法で稼いでいた。コレットと姉さんは学校の食堂でバイト、ロイドとクラトスさんは街の外で魔物と戦闘、そしてミライはボクを連れてこの飲食店へと来た。そしてそこで今日一日だけのバイトとして亭主に雇ってもらったのだった。

ミライは最初からすごかった。お客への対応と言い、手際の良さと言い……いくらダイクのおじさんの仕事を手伝っていたと言っても、ここまでなるのだろうか。それだけにしては何だかとても慣れていた感じがあったのだ。そう思って訊いてみると、やはりミライは以前バイトをしていたと言う。いつやっていたのかは教えてくれなかったけど。ミライ曰く、『キャリア3ヶ月を舐めるなよ♪』らしい。それにボクは果てしなく不安を覚えたが、取り敢えず頷いておいた。


接客業とは、お客様への思いやりと笑顔が大事だと言う。だがしかし、果たして今このお客にそんなモノが必要なのだろうか……。そもそも何故こんな状況になっているのかと言うと、男達のいるテーブルの上にあるアツアツの料理に問題があったのだ。

男達が注文したのは皿うどん。他のバイトさんがそれを持って行き、暫くした後に怒鳴り声が聞こえた。それにミライが素早く対応した。ミライが「どうしました?」と訊くと、男の一人が皿うどんを指差してこう言った。



「この店の言ううどんってのはミミズなのか!?」



と。よく見ると確かにミミズが数匹皿うどんの上を泳いで(?)いた。でもそれはどう見ても後から男達が乗せたようにしか思えなかった。バイトさんも自分が持って行った時にはありませんでしたと言っていたし。

ボクは亭主を向いた。亭主は苦い顔で男達を見ながら言った。



「たまにああやって訳のわからない文句をつけて、料理をタダにしてもらおうとする輩がいるんだよ」

「何て酷い……!」



正直そんな奴ら、魔法でぶっ飛ばしてやりたかった。だけど仮にも相手はお客様。ボクは今、お客を大事にしなければならない立場故、そんな事は間違っても出来ない。



(ミライはどうするんだろう……)



そんな事を思っていると、暫く皿うどんの上のミミズを見ていたミライが顔を上げた。



「良かったじゃないですか〜♪」














は?



笑顔でそう言ったミライに男達だけでなくボクや亭主達、そして他のお客まで間抜けな声を上げて硬直した。



「だってそれだけこの料理が美味しかったって事でしょう?」



それに男達はドッと笑い出した。



「何言ってんだテメェ? 頭沸いてんじゃねーの!?」



ヒィヒィと腹を抱えて笑う男達にミライは尚も笑顔を貫き通していた。



「沸いてなどいませんよ。それにミミズは土を綺麗にすると言います。きっと料理をもっともっと綺麗にしていたのでしょう」



それ全く関係ないんじゃないの?

そう思ったが口には出さず、展開の行方を見守った。



「だからそれを食べて、その無駄な物しか入ってなさそうな汚い脳ミソも綺麗にしてもらったら良いじゃないですかッ★」

「な、何だとテメェっ!?」



流石に嫌味だと気付いたのか、男達は顔を真っ赤にして激怒した。まぁ、誰でもあんな風に言われたら怒るよね。それでもやっぱりミライは笑顔だ。でも気のせいか、その目は笑ってないように思えた。



「まぁまぁ、そう怒らずに。とある地方では本当にミミズを食料としてるんです。美味しいらしいですよ? 良かったら入れてみます?」

「いらねぇよ!!」

「ってかどっから出したんだオイイイイッ!!?」



両手一杯にミミズを掲げたミライに男達はドン引きしながら同時にツッコミを入れた。でも本当にどこから出したんだろう……。



「クソッ、やってられるか!」

「帰ろうぜ!」



そう言って男達は椅子から立ち上がり、ミライを押し退けて店を出ようとした………が、しかしミライが彼らの肩に手を置いた事によりそれを妨げたのだった。


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