The symphony of black wind
- 火の神殿(9/10) -


ゆっくりと目を開けると綺麗な夜空が見えた。今度こそ現実に戻って来たらしい。ただし神殿の中ではなく外であったが。誰かが運んでくれたのだろう。上半身だけ起き上がると、それに気付いたロイド他子供達が焚き火の方から勢い良く駆け寄ってきた。



「ミライ、目が覚めたんだな!」

「あぁ」



ロイドの言葉に頷くと、今度はコレットとジーニアスが口を開く。



「突然倒れたって聞いてびっくりしたよ〜」

「全くもう、コレットと言いミライと言い……心配かけさせないでよね」

「はは、あー……そりゃ悪かったな。って、言うかコレット。倒れたのか?」



ジーニアスの言った事が気になりコレットを向くと、苦笑していた。



「試練の代償って言うのかな。それでちょっと……ね」

「そうか。じゃあ、ゆっくり休まないとな」

「うん、そだね」



ミライもゆっくり休んでね、と言ってコレットはジーニアス、ロイドと共に戻っていった。



「あの………」



ロイド達と入れ替わるように今度は奥でリフィルと何やら話し込んでいたアリアが近寄ってきた。その可愛らしい眉は申し訳なさそうに下がっている。アリアはミライの傍まで来ると勢い良く頭を下げた。



「すみません! わたしが深く考えもせずにあんな事を言ったからミライさんが……倒れてしまわれて……」



突然の謝罪にミライは遺跡に入る時同様に慌てた。



「い、いやいや! 君が謝る事はないって。俺だって何も考えてなかったしな。それにほら、どこも怪我とかしてないし。大丈夫だよ」

「ですが……」



何ともないのを証明する為に腕を振り回しながら言ったが、アリアは俯いたままだった。ミライは話題を変えようと必死で言葉を探した。



「あ、そうだ。さっきリフィルと何か話していたみたいだけど、何話してたんだ?」



これは本当に気になった事だ。チラリとリフィルの方を見れば、一人怪しげな笑みを浮かべてブツブツと呟いている姿が目に入った。これが気にならないわけがない。それにアリアは漸く顔を上げると苦笑して言った。



「実は……先程神殿の守護者との戦闘で使った"譜歌"について訊かれましたので、それにお答えしたら……」

「あー……成る程」



そんな彼女の答えにミライも苦笑を溢した。



「……にしても」

「?」



苦笑するのを止め、幾分声色を変えてそう言うとアリアは不思議そうに首を傾げた。



「アリアは随分と戦闘慣れしてるな。旅をして長いのか?」



神殿では守護者を含め幾度か魔物との戦闘もあった。クラトスを除く最近旅を始めたばかりのロイド達はここに来るまでの疲れもあってか、攻撃を受けて怪我をするところも多々あった。しかし彼女は怪我をするどころか、息切れ一つしていなかった。更には少し強めに譜術を放つだけで弱い魔物は直ぐに倒せた。譜術は魔術に比べ威力は低いとは彼女自身が言った事だ。ならば、これは相当な経験を積んで来たと言う事なのだろう。そして何より、彼女はクラトスと同じだった。この幼い笑顔の奥には人を殺めてきた者の顔がある。確信などない。だけどミライは己の中の何かがそう訴えかけているのを感じていた。

アリアは思い出すように目を閉じた。



「そう、ですね。もう旅を初めて五年くらい経つのでしょうか。それだけ旅をしていれば、嫌でも力はついてしまいます」



五年もその小さい身で……。だけど、



(本当にそれだけなのだろうか?)



本当にそれだけで、そこまでの力が持てるようになるのか?

それだけでそんなもう一つの顔を持ち、そしてそれを隠す事が出来るものなのか……?

きっとまだ何かあるのだろう。きっと……彼女のいた世界で。それはあくまで予測の域でしかない。だからと言って態々それを彼女に訊くような事はしないが。



「ずっと一人なのか?」



そう訊くとアリアはゆっくりと目を開けて首を振った。



「いえ、仲間がいます。今はその人と一緒に旅をしているんです」

「いるんですって言われても………今はいないよな?」

「まぁ確かに、今現在は一緒にはいませんね」



そんなさらりと答えてしまって良いのだろうか?



「心配とかしないのか? はぐれちゃったのに……」



呆れ気味にそう言うとアリアはニコッと一見邪気のない笑みを浮かべて頷いた。



「はい、よくある事ですから今更しません。疲れるだけですし♪」

「そ、そう……か」

「それに、今回はわたしの方から撒いて来たんです。行く場所は告げてあるのでその内追い付いて来るでしょう」



それを聞いて何だかその連れに同情したくなってきたのは気のせいではないだろう。そしてそれと同時にアリアの印象を改める事となった。



「それなら良いか」

「はい。死んでしまったらその時はその時でプランクトンの餌にしますので」













こいつは絶対に黒い、と……。



「ま、それが妥当だな」

(って、俺も人の事を言えないか?)



それを聞いていたジーニアスとクラトスが何とも言えない微妙な顔をしていたとかいないとか。


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