The symphony of black wind
- 火の神殿(8/10) -


どうやら相手は本当に火の精霊らしい。だがそれなら自分をこの場所に"呼んだ"のにも納得がいく。ミライは早速とばかりに先程の彼(?)の発言について問いかけてみた。



「なぁ、イフリート。さっき足りないからって言ったよな。それはどう言う事なんだ?」

『お前がこの世界の来る時、我を含む全ての精霊のマナの一部をお前に注いだ』

「す、全ての精霊!?」


確かに複数のマナが己の中にあるとは思ったが、全てだったとは意外だった。そのあまりの衝撃にミライは驚きを隠せなかった。それでもイフリートは続ける。



『あの時のお前は精神体だけだったとは言え、かなり衰弱していた。だから我々はお前の身体を構成するマナをお前が取り込める量の中で同じ分ずつを与える事によって、その形を固定する筈だった』



何だか発言が小学生の工作みたいな事が非情に気になったが、それよりも気になった事がありミライは首を傾げた。



「筈、だった?」



それはとても不自然な言い回しだった。イフリートは厳つい顔を更に顰めて小さく唸った。



『うむ。しかしもう少しの所で問題が起き、お前の精神体が別の力に引っ張られてしまった』

「はぁ……」

『その時に驚いたシャドウが誤って残り要領に大量のマナを注ぎ込んでしまったのだ』

「そうなんだ…………って、はぁ!?」



あまりの内容に素っ頓狂な声を上げる。



「つまり俺の体内にあるマナで闇が異常に多かったのってシャドウのせいなのか? シャドウがイフリート達のマナを入れる分の所にまで闇属性のマナを入れたから他のマナが入りきらなくなって、結果的に俺は闇以外のマナが不足したと……こんな感じか?」

『そうだ』

「………………」



……結構精霊ってのも間抜けなんだな、とそう思わずにはいられない。



「でも、そんなアンバランスな状態でよく五年近くも生きてこれたなぁ、俺」

『だがいつそれが崩れるかわからん』

「崩れたら俺は……今度こそ死ぬのかな?」



でも既に一度死んでるからマナに還って消えるだけか。そう言って笑うと、イフリートは何とも言えない顔をして黙った。だがすぐに元に戻り、口を開く。



『そうならない為にも、お前には我らのマナを集めに来てもらう』

「来てもらうって、今回みたいにマナに触れて一々気絶して精霊様に会えってか?」



あれ凄く辛いんですけど、と訴えを含ませて言うとイフリートは首を横に振った。



『いや、その必要はない。次回からは我らを目覚めさせた時に自然にマナが入るようになる』

「なら今回もそれで良かったんじゃ……」

『今回はお前に渡したい物があったから我から呼んだのだ』

「渡したい物? それはどこにあるんだ?」

『もう渡した』



そう言われてミライは身の回りを探ったが、何もなかった。



「ないぞ?」

『次に目覚めればわかる。……それがあれば直接触れずとも、マナを入れる事ができるようになる』

「そっか、ありがとな」



そうお礼を言って微笑み、すぐに真剣な物に変えると「なぁ」と言って、ずっと気になっていた事を口にした。



「何故、俺を生かしたんだ?」



しかしイフリートは「我は知らぬ」と首を振った。



「どういう事だ?」

『我らは命ぜられただけだ。時空の狭間を彷徨うお前を生かすようにと』



それを聞いてミライは更に疑問が増えた。一体誰が、何の為に自分を生かしたのか。しかしイフリートのこの言い方から、それを訊いたところで答えてはくれなさそうだった。

そして気が付けば、段々意識が朦朧としてきていた。



『そろそろ時間だ』



恐らく身体が目覚めようとしているのだろう。ミライは何とか意識を紡ぎ、口を開いた。



「なあ、最後に一つだけ……質問させてくれ」

『何だ?』

「全て、の…マナを……集めたら、その……お前達に命じたって、言う奴に会えるの、か?」

『………断言は出来ないが、恐らく』

「そっか………」



サンキューとお礼を言って、ミライの意識は完全に途絶えた。






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