The symphony of black wind- 火の神殿(3/10) -
リフィルは扉に手を当て、フハハハと高らかに笑った。その様子は普段の彼女を知る者達にとっては信じがたい光景であり、誰もが目を白黒させていた…………約二名を除いて。
「見ろ、この扉を! これは古代対戦時に魔術障壁として開発されたカーボネイトだ! あぁ、この皇かな肌触り……なんて見事なんだぁv」
お前達も堪能してみろ、と扉に顔を擦り付ける彼女は何とも幸せそうな顔をしていた。周りは物凄く引いていたが。
「……いつもこうか?」
クラトスの声が静かな砂漠のど真ん中にやたらと大きく聞こえた。ジーニアスは顔に手を当てて「隠してたのに……」と嘆いていた。
しかしただ一人、ミライだけは違った。
「かっけー………!」
彼は抑え切れなくなり、興奮気味にポツリと呟いてしまった。するとジーニアスがばっと顔を上げ信じられないモノを見るような視線を投げかけた。
「……本気で言ってんの?」
「おうよ!!」
て言うか、これを見たかったんだよな!
リフィルが遺跡や、それに纏わる物を見るとこうなる事は大分前から知っていた(と、言うより見てしまっていた)。だから今更引く事もないし、寧ろミライからすれば楽しみでしかたがなかったのだ。嬉々としてそう言われてしまえば流石のジーニアスも返す言葉を失い、遠い目をして肩を落とすしかなかった。
「有り得ない……有り得ないって言うか、奇特すぎだよミライ」
幸なのか不幸なのか、気分が最向上していた彼にそんなにジーニアスの突っ込みは届かなかった。
その後リフィルとコレットにより扉は開かれ、アリア以外の全員がクラトスに簡単な防御術指南を受けてから遺跡の探索が始まったのだった。
*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇
遺跡の中は、まるで火山にでもいるかのような暑さだった。中には変わった魔物も多数おり、ロイド達はそれらを倒しながら慎重に奥へと進んで行った。進んで行くにつれ、リフィルも先程に比べて随分と落ち着きを取り戻しアリアを振り返った。
「そう言えば、気になったのだけれど」
その言葉にアリアではなくミライが背筋をピンと張ったが、幸い、誰にも気付かれる事はなかった。
「貴女は不思議な術を使うのね」
どういう事だ、とロイドが首を傾げる。
「アリアの使う術はジーニアスやクラトスの使う術に似ているようで、違うのよ」
「あ、確かに! アリアの使った術からマナを感じなかったし」
ジーニアスの言う通り、ここ数回の魔物との戦闘で彼女は何回か術を使った。だがそれは魔術を使う為に必要なマナではなく、また違ったエネルギーを使用していたのだった。流石にクラトスやミライはわからなかったが、マナに敏感なエルフの血を引く二人はそれに気付いたようだった。
リフィルの言葉にアリアは頷きながら言った。
「はい。わたしの使う術は"譜術"と言って、音素【フォニム】と呼ばれるエネルギーを使用しているんです」
「ふぉにむ? 聞いた事ないねー」
今度はコレットが首を傾げ、それにロイド達も頷く。
「音素……ねぇ」
「何か知っているのか?」
クラトスの問いにミライは首を振った。
「いや……。でも何か、どこかで聞いた事があるような気がしただけだよ」
と、自分の元居た世界で言う音素とは音の最小単位を表す言葉だが、恐らくアリアの言うモノとは違うだろう。だが、この世界にはそれすらも存在などしていない。……と、言う事はやはり、
(アリアが異界から来たってのは本当らしいな)
そんな事を思っていると、コレットがミライの名を呼んだ。
「聞いた事があるって事は、やっぱりミライもその"イカイ"って所から来たのかなぁ」
「……………………」
どうやら墓穴を掘ったらしかった。
「あー……」
「でもよ。例えそうだとしてもミライに記憶がないんじゃ、確かめようがねーじゃん」
回答に困っているとロイドからの思わぬ助け舟を貰った(恐らく言った本人にその自覚はない)。ミライ本人も忘れていたが、彼はまだ記憶喪失という事になっていたのだ。助かったかな、とこっそり安堵していると今度はアリアからの心配そうな視線を受けた。
「そうなんですか……?」
「え、あ……うん、まぁ……」
「お辛い、思いをされたんですね」
シュン、と俯かれて内心罪悪感で焦った。
「ま、まぁ……別にお前が気にする事でもないよ。それに、俺は今がすごく幸せなんだ」
ロイドがいて、
ジーニアスがいて、
コレットがいて、
ダイクのおっちゃんやノイシュ……それから村の人たちがいて、
リフィルがいて、
最近仲間になったクラトスもいる。
元いた世界とはまた違った生活
家族
そして、仲間
どれも嫌じゃない。寧ろ好きだ。
この世界での新しい生、新しい温もり……大切なんだ。無くしたくない。だから、この世界が危機だと言うなら守りたい。
あの人のいる、この世界を………。
「だからアリアがそんな顔をする事はないんだよ」
そう言ってニッと笑うと、ぎこちないながらも彼女も「はい」と頷いて小さく笑った。
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