The symphony of black wind
- 旅立ち前夜(3/4) -


ミライは一人夜空を見上げていた。



「……………」



家に帰ってくるなり、要の紋を作る作らないで親子喧嘩を始めたロイドとダイクを見ていた時、ロイドの母親がディザイアンに殺された事を知った。彼の母親は最初は化け物の姿をしていたらしい。だがダイクが来た時、丁度人に戻り幼いロイドと彼の持っているエクスフィアを託して死んだのだと言う。

その話を聞いたミライはまだ自分が"向こうの世界"で生きていた時の己の母親の事を思い出してしまった。



「………母親、か」



ミライの母親は彼がまだ13、4歳くらいの時に交通事故に遭って死んだ。そしてそれをミライは目の前で見ていた。今まで自分を大切に育ててくれた人が、いつもの暖かな笑顔ではなく目を見開いたまま血まみれで倒れている姿を。当時、父親は地方で仕事をしていた為会う事すら滅多に適わない状態だった。……最後に会ったのはいつだったのかすら覚えていない。だからこそ余計に母親が死んだ時、本当に独りになったんだと思って絶望した。何にも関心を持たなくなり、健気に元気付けてくれようとしてくれた人達の言葉にも耳を塞ぎ、一人部屋に閉じ篭って泣いていた。

だけど自分をそんな絶望の淵から救い出してくれた存在がいた。不器用だけれど、一生懸命励ましてくれていた自分に最も近い位置にいたあの子。それは…───

















「ミライ?」



突然掛けられた声に一旦思考を中断して振り替えればジーニアスとその姉のリフィルがいた。そしてその更に後ろにいるのが……恐らくクラトスだろう。



「あれ? お前らどうしたんだ……ってかコレットは?」

「もうロイドの所へ行ったわよ」



リフィルが苦笑混じりに答える。



「そっか。……あ、取り敢えず中入ってお茶飲んでくか?」

「いえ、直ぐに帰るから良いわ」



そう言ってリフィルは橋の所へ行ってしまった。



「はは、フラれたね」

「何?」



別にナンパをしている訳ではないのにそれはどうなのだ。ムッとして思わず睨むとジーニアスは「冗談だって」と言ってノイシュの所へ行った。何だか複雑な思いのまま溜め息を吐けば、未だに黙って立っているクラトスと目が合った。



「それで、アンタがクラトス?」

「あぁ。……お前は?」

「ミライだ。よろしく」



そう言って握手を交すと、会話がなくなってしまった。



「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


















……………………。



















(か、会話ねー……)



この後どう切り出せば良いのかわからなくなったミライは取り敢えず目の前寡黙剣士の観察をする事にした。



(うーん………にしてもこの人、珍しい格好をしてるよな。今時タイツ(?)で旅する人なんて見掛けないし。それに彼の右手に着いてるのって……間違いなくエクスフィアだな。そりゃ強い筈だ)



いや、例えそれが無くてもこの人は相当な実力者だろう。少なくとも、100、200……或いはもっと沢山の者達と戦っていると思う。それだけ彼から出る、恐らく無意識であろう人を殺しすぎた者だけが放つ殺気がすごい……いや怖いのだ。



「……ミライ、だったか?」

「へ? あ、あぁ……そうだけど」



いきなり話しかけられ、反応が遅れつつも頷くとクラトスはまじまじとミライの姿を見て口を開いた。


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