The symphony of black wind- 風の配達屋(4/4) -
「ところでロイド、もう帰るか?」
「ん? あぁ」
「じゃあノイシュに乗せてってくれよ……ん?」
どうせ村の外にいるんだろ、と言い掛けた所で何やら入り口から怒声が聞こえてきた。振り返ると村の外番をしているおじさんが何かを追い払おうとしている姿が目に入った。
その"何か"と言うのはミライには十分予想が出来ていた。
「ロ・イ・ドー……?」
「い、行ってきまーす!」
そう言うとロイドは慌てて入り口へと向かって行った。
「ノイシュかな?」
「だろうな……ったく、また村の外でブラブラさせてたんだろ。いつも直ぐに家へ帰してやれって言ってるのにな」
「あはは、ミライも大変だねー」
苦い顔で溜め息を吐くミライとは対称的にジーニアスが面白そうに言う。その時、不意に誰かに名前を呼ばれた。
「ミライ」
その誰かとは先程のおじさんだった。どこか疲れ切っているのは恐らく(いや、間違いなく)その後ろにいるロイドと彼曰く犬(?)のノイシュが原因だったのだろうと思う。取り合えず心の中で苦笑しつつどうしたのかと問うと、おじさんは難しい顔をして言った。
「いやなぁ、ロイドにも言ったんだが……お前ら人間牧場に入って遊んだりしてないだろうな?」
「牧場に? 近くは通るけど入ったりはしてないぜ」
そもそも牧場の管理者であるディザイアンとは昔から不可侵条約を結んでいるから、互いの干渉は出来ない筈なのだ。それは村の小さな子供でも知っている事なのだが、何故今更そんな事を言うのだろうとミライは不思議に思った。
「そうか、なら良いんだ。あ、ほら今日聖堂で不可侵契約を破ってディザイアンが神子様を襲って来たと言うんでな」
「そうなのか?」
それは知らなかった。しかし祭司が殺されたと言う事は……そう言う事なのだろう。
「うん、もう大変だったんだよ。クラトスさんが来なかったらどうなってた事か……」
ジーニアスがその時の事を思い出したのか体をブルッと震わせて言った。ロイドはその"クラトス"の名が出て再び機嫌が降下しているようだが、気にしない事にした。
「……そうだったのか。ま、とにかく極力牧場には近寄らないようにするよ」
「あぁ、そうしてくれ」
何かあってからじゃ遅いからな、と言い残しておじさんは仕事に戻って行った。
「さて………ジーニアス!」
「! な、なに……?」
おじさんの姿が見えなくなったのを確認してからジーニアスを呼ぶと、明らかに焦ったような顔になった。正直、悪い予感しかしないミライだったが、放っておく訳にもいかないので取り合えず問い掛けてみる事にした。
「なーにを隠してるんだい?」
おじさんやロイドは気付いていなかったみたいだが、彼は人間牧場の単語が出た時明らかに動揺していたのをミライは見逃さなかった。
しかしジーニアスは、
「え、いや……はは。な、何の事かなぁ……」
目が泳いでるぞイセリアの天才魔術師。
「ジーニアス」
「……………………」
「……………………」
「…………わ、わかったよ。話すから」
観念したように肩を落としたジーニアスはゆっくりと訳を話し出した。
*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇
「牧場に知り合いが、ね……」
ジーニアスの話を聞く限り、今日神託があった事をどうしても伝えたい人がいるらしい。そこまでなら良いが問題はその人物が人間牧場にいると言う事だった。
「なぁ、それってお前がよく給食の残りをあげてるヤツか?」
不意にロイドが言った言葉にジーニアスは「知ってたの?」と驚くが、すぐに悲しそう顔を歪めて頷いた。
「いつもお腹を空かしてるんだ……」
「あのディザイアンが治める施設だからな。まずまとも生活は出来なさそうだ」
「そうだよな」
ミライの言葉にロイドはうんうんと頷き、そして
「でもコレットが再生の旅を成功させればきっとその犬も幸せになれるよ」
「「…………犬?」」
何故人間牧場になのに犬になるのだろうか。昔からだが、この義弟はどうにも天然過ぎる所があるのが偶に傷だとミライは頭を抱えた。そして当然悪気がないとは言え友達を犬と勘違いされたジーニアスは怒った。
「違うよ! ちゃんと人間だよ!」
「そ、そうなのか? てっきり先生に内緒で牧場に犬でも飼っているんだと……」
「いやいや、ロイド普通に考えて有り得ねーから」
て、言うか大体犬を隠す為に命の危険を冒してまであんな所に行くかよ……まぁ、コレットならもしかしたらやりそうだけど。犬好きなあの少女を思い浮かべ思わず苦笑するが、いつまでも喋っていても時間の無駄だと思い話を変えた。
「何なら早いとこその知り合いってか、友達に会いに行こうぜ」
「え? ミライ達も行くの?」
ミライ達が行くと言うとは思わずキョトンとするジーニアスに「当然だ」と返す。
「只でさえ向こうは神子の再生の旅が始まるんでピリピリしてんだ。お前みたいなチビッ子一人で行かせられるかよ」
「チ、チビじゃないやい!!」
「おっと。ま、とにかく決まりだ。ロイドもな」
「あぁ!」
殴り掛ろうとするジーニアスの頭を抑えながらロイドに言うと既に行く気満々な返事が返って来た。
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