A requiem to give to you
- 国境の砦(10/11) -


眩しさにゆっくりと瞼を開くと、見覚えのある部屋と眼鏡の二人が目に入った。



「ルーク、目が覚めたのね」



己の様子に気が付いたタリスが笑顔で声掛けてくる……が、ルークは疑問符を浮かべた。



「タリス……? つーか、俺……何で此処に??」

「覚えていないの?」



タリスの問い掛けに素直に頷くと、ルークの脈を診ていたらしいもう一人の眼鏡ことジェイドが口を開いた。



「『ヴァン師匠を探しに行く』と言ったきり戻らなかった貴方をグレイが背負って連れ帰ってきたんですよ」

「グレイが!?」

「そうですよ。どうやら探し疲れて木にもたれ掛かったまま寝ていたそうで……滅茶苦茶重かったと帰ってくるなりガイにぶん投げながら愚痴っていました♪」

「楽しそうに言うなっつーの!」



つーか俺の扱い悪過ぎだろ、と自分の知らない所で起きた自身の事実と、それでも起きなかった己にルークは少しだけ落胆したのだった。そんな時、ふとタリスの声が耳に入ってきた。



「でも、結局ヴァン謡将には会えなかったみたいで残念だったわねぇ」

「え……………?」



彼女の言葉にルークは首を傾げた。自分は既にヴァンに会った気でいたのだ。だからタリスの言葉に違和感を感じた……が、



(あれ……でも俺、師匠と何か話したか? てか、本当に会ったっけ………?)



会って、話をしたような気はする。でも会った時のヴァンの表情、彼の言葉、内容など全てが思い出せなかった。そして、ジェイドの話から自分は寝ていたらしい。もしかして、その感覚自体が夢であったのだろうか……?



「そう、だな」

(……そうだよな。そうじゃなきゃ、俺が師匠と何話したか忘れるわけないもんな)



ルークはそう自己完結させると、それ以上その事について考えるのはやめた。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







「あー………疲れた」



ルークをガイにぶん投げ、タリス達に後を任せたグレイは前もって割り振られていた部屋のベッドへとダイブした。そんな彼の様子に同室だった為、一緒について来たヒースが呆れたように溜め息を吐いた。



「たかが人ひとり抱えていただけで情けないな」

「アホったれ。それ以前の問題だろうがよ」



よくよく考えてみれば、つい昼頃までここカイツールに向かうべくずっと歩き詰めだったのだ。おまけに道中は魔物や盗賊に出会したり、フーブラス川ではアリエッタの強襲にまで遭った。そんな碌に休めていない状態で"力"まで使い、ルークを抱えて戻ってきたのだ。後者は自業自得とは言え、やはり疲れる物は疲れる。

明日はまた軍港に向かう為に外を歩く事になるだろう。ここから軍港までは少々距離がある。途中で魔物に出会(でくわ)さないとは限らないし、何よりもここら辺は海が近いから水辺の魔物も普通に陸を彷徨いている。水属性の魔物と言うのは基本的に打たれ強いの多いから、戦うには非情に面倒臭い相手なのだ。



(出来るだけ魔物との戦闘は避けてーよな。なら明日朝一番でホーリーボトルを大量に買っておくべきか?)

「なぁ」



明日の予定について色々と考えていると、既に寝支度を終えて隣りのベッドに腰を下ろしたヒースに話し掛けられた。



「どうした?」



と、先を促せば彼は少し考えるような仕草を取り、それから「ずっと聞きそびれてたんだけど」と前置きをして、どこか確かめるように問い掛けてきた。



「この世界に来てからの二年間、何か変わった事はあるか?」

「変わった事?」

「ああ………いや、変わった事って言うか、この世界に来てから気付いた事とか、変わった事とか、もしくは変な人に会ったとか……そんな感じな事なんだけど」



気付いた事、変わった事。一瞬、それはこの"力"の事を言っているのかと思ったが、だとすればそれは目の前の奴も同じ事だから恐らくそれはないだろうとその考えを否定した。


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