A requiem to give to you
- 国境の砦(9/11) -


ヴァンは素早い動きでレジウィーダを追い掛けると、身の丈ほどある長剣を横凪ぎにした。レジウィーダはそれを一瞬だけ屈んで避けると、彼女の周りにあった細い木々が真ん中から音もなく切れて落ちていった。



「あっぶなぁ……あんなの当たったら命がいくつあっても足りないって」

「人の命は無限ではない。そして今、お前の灯火は私が消し去るのだ!」



淡々と言いながら連撃を繰り出すヴァンにレジウィーダは舌打った。



「何真面目に返しちゃってんだし。言葉の綾だっての」

「減らず口とは余裕だな……喰らうが良い!」



ヴァンは剣に音素を集束させると徐に放った。その緩い動作とは裏腹に稲妻のような光が林を駆ける。それはレジウィーダのすぐ近くまで来ると小さな爆発を起こした。



「おわっ!?」



小さくとも至近距離からの爆発にはレジウィーダの身体は容易く吹き飛び、近くの木に叩き付けられた。



「あっ……ぐ………っ」



元々それ程打たれ強くはない彼女にとって、今のはかなり堪えたらしく、直ぐには動けなかった。

カイツールまで逃げ切れば仲間達がいる。マルクト軍の大佐もいればルークだっているのだ。そこまで行けば流石のヴァンもおいそれと手出しは出来なくなる。



(早く、行かないと……)



そして仲間達に伝えなければならない。このままでは世界がなくなりかねない、と。

レジウィーダが立ち上がると同時にヴァンは再び剣を振り下ろした。鋭く光る刃を避け、相手を怯ませるべく術を放って反撃した。



「ファイアボール!!」



しかしそれはいとも簡単に避けられる。だがそれも予想の範疇だ。



「まだまだっ……───イラプション!!」

「むっ……!?」



詠唱破棄でそれ程の威力はないが、これだけ範囲の広い術が繰り出されれば流石のヴァンも踏み留まった。それを好機にレジウィーダは素早くエネルギーを集めるとマナに変え、詠唱を始めた。



「灼熱の業火より出でし焔の獅子よ、その爪牙を以て焼き尽くせ!」



大きな術を放つ時はその反動も威力に比例する。それを少しでも軽減する為にレジウィーダが考えたのは、詠唱が完了した時に一度飛び退く事だった。そして地面に着いた瞬間に術を放つ。






………が。しかし今回はそれが仇となってしまった。






ぐにっ




「みゅっ!?」

「え」



何かを思い切り踏みつけ、バランスを崩した身体は頭から地面へと勢い良くひっくり返った。今にも放たんとしていた術は不発となり、行き場をなくしたエネルギーはその場で霧散し、音素へと乖離してしまった。漸く動けるようになったヴァンがその様々な音素が混在する空間に心地悪さを感じながらもレジウィーダに近付くと、彼女は地面に倒れ込んだまま動かなくなっていた。



「………………」



ヴァンは気絶をしたらしいレジウィーダに留めを刺さんとして剣の先を向けた。

しかしそれは彼女の身体を貫通する事は愚か、その刃が触れる事すらなかった。



「……────」

「!?」



気配なく現れたソレは一瞬の隙を突き、ヴァンの前を物凄い早さで通り過ぎた。そのまま倒れたレジウィーダをも連れ去ってしまい、直ぐ様追い掛けようとした。けれどソレは再び気配を消してしまい、この暗闇である。追跡は到底無理だった。



「………っ、おのれ」



ヴァンは苦虫を噛み殺したかのように顔を顰めると、直ぐに踵を返して本来の目的の地へと急いだ。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇



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