A requiem to give to you
- 国境の砦(7/11) -


他人への関心の薄いとされる自分が何故ここまで彼らの為を思うのか、それはグレイ自身にもわからない。付き合いが長いからか、同郷のよしみなのかそれすらも不明だ。けれど……フーブラス川でタリスを助けた時もそうだったが、彼女達を失うのは恐い。それだけは確かにわかるのだ。恋人とか、幼馴染みとか、親友とかそう言った問題じゃない。もっと感覚的に奥底にある感情が訴えかけている。そんな気がしてならない。



「チッ……」



本当はヴァンに当たるのはお門違いなのだ。教えなかったのは彼の非であるが、それによって彼女達を守ってくれていたのも確かだった。それでも自分の手でそれが出来なかったのは、やはり気分が良い物ではない。要するに、グレイはただ悔しかっただけなのだ。それだけじゃない。レジウィーダに逃げられ、恋人であるはずのタリスにも氷付けにされて、ヒースに関しては自分の手の届かない所にいると知らされる。やっと捕まえたと思えば、今度は戦う決意と来た。これだけは避けたかったのに、何と情けない事か。

そんなグレイの心境を理解しているのかいないのか、暫しそんな彼の様子を見ていたヴァンはゆっくりと口を開いた。



「それでお前は、どうするのだ?」

「何が?」

「このまま……あの者達と共に行くか? それとも──」



そこに続く筈だった言葉を遮り、グレイはフンと鼻を鳴らした。



「前にも言ったろ。あんたが約束を守ってくれてる間は、オレはあんたの駒だってな」



約束、実際はそんな可愛らしいモノではないが、グレイにとってその言葉が一番しっくりとくるのだ。それにヴァンは「そうか」と頷こうとして、不意にハッとしたように草影に目を向けた。



「───誰だ?」



その一言で、辺りの空気が一気に張り詰めた物へと変わった。グレイも静かにホルスターへと手を伸ばし、ヴァンの視線の先へと意識を向ける。

しかし、相手が出て来る気配はない。



「出て来ぬと言うならば……」



スッと鞘から剣を抜き、構えた所で漸く隠れていた者が姿を現した。



「せ、師匠………」

「ルーク……っ」



困惑げに出てきたルークを見たヴァンは微かに目を剥き、次いで視線だけをグレイに向けた。つけられたな、と咎めるような目で見られたグレイは肩を竦めるとルークに言った。



「何でお前がここにいンだよ」



と、答えは分かり切っているものの一応訊いておく。



「な、何でって……折角久し振りに師匠に会えたから、もっと話したくて…………探してたらグレイが林に行こうとするのが見えたから……。もしかしたらと思って……」



つまりは最初から全部聞かれていた、と言う事だ。それにグレイは溜め息が漏れた。



「お前なァ……いくらキムラスカの偉い奴だって言っても、自国でもねェ他所の軍人の密会を盗み聞きするもンじゃねーぜ。どんな内容であろうとも、な」



お前がファブレ家の人間じゃなけりゃ今頃命はなかったぞ、と武器をちらつかせながらニヤリと笑えば、ルークは目に見えて怯えた。しかし声を上げなかったのは男としてのプライドか、はたまたヴァンの前だからなのかはわからないが、正しい判断だと言える。

ルークはヴァンを見る。きっと色々と言いたい事、聞きたい事があるのだろう。しかしこの話はルークにだけは絶対に知られてはならない事だった。だからと言って計画には必要不可欠だと言うこのレプリカをここで殺す訳にもいかず、ヴァンは内心焦っていた。幸いな事にルークにそれを悟られる事はなかったが、近くにいたグレイにはその感情が伝わってきた。いつもならそんな彼を小馬鹿にしながら傍観を決め込む所だが、今回は明らかに自分に非がある。それにルークを伝って計画がタリス達にバレるのは現時点では非常に拙いのだ。

グレイは仕方ないともう一度溜め息を吐くと譜業銃をルークに向けながら彼に近付いた。


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