A requiem to give to you
- 国境の砦(6/11) -



「まさかあの時、私の記憶を見られていたなど、思いもしなかったな」

「オレだってそうだぜ。まさか自分にンな力があるだなんて思うかよ」



あの時はわからなかったが、暫くしてからアレがグレイ自らが持つ力(レジウィーダ風に言うならば"例の裏技")であった事がわかった。そして、彼が見たのはヴァンが幼き時に体験した記憶。彼の故郷、ホドが当時実験していた超振動によって崩壊した時のモノだ。そのホドの崩落が、秘預言【クローズド・スコア】によって読まれていたモノだとヴァンに教えられたのはあの後直ぐの事。

そして彼がその預言を憎み、被験者を滅ぼしレプリカの世界に変えてでも消したいと思っている事も……。



「しっかし、あんたもよくそんな重要っぽい事を異世界から来たばかりの、しかも明らかに無関係そうな奴に話したもンだよな」



普通なら消されてもおかしくはない。なのに目の前の男は自分を殺すどころか、自らの秘密をペラペラと話し出したのだ。呆れ顔でそう言うグレイにヴァンはフッと笑う。



「だからだ。お前達の世界には預言がない。だからこそ、この世界の異常さがわかると思ったのだ」



そう、だからこそヴァンは自分をその計画に誘ったのだ。しかしグレイは直ぐには返事は出さなかった。もう少し世界の事、預言の事を知ってから答えを出すと言う事にしていた。それからはダアトを拠点にして情報を集めると決めていた故、導師イオンの紹介の元で軍に入る手配をしてもらったり、生き別れてしまった仲間を探す為の力をつけていた。その中で預言の真髄について知る機会もあった。その真実、残酷さ、愚かさを知った。―――そして答えを出したのだ。














別に協力してやっても良い、と。

どの道自分達はこの世界の者じゃない。いずれ帰る事になる。死ぬのは真っ平ごめんだが、ヴァンの計画を成功させた後に元の世界に帰れば良いだけの事だ、とグレイは彼にそう言った。

グレイにとって重要なのはこの世界でも、この世界に住まう者達でも、預言でもない。共にこの世界に喚ばれてしまった幼馴染み達だけだ。だから彼女達さえ無事であれば、滅ぼうが何しようがどうでも良い。預言を信仰していて、それによって滅ぶのならば本望だと言った言葉に嘘はない。

グレイは彼の計画に協力する為に一つの条件を出した。それは、



『何があってもオレの幼馴染み達に手を出さない事』



それさえ守ればいくらでも協力する。それがグレイの出した答えだった。それをヴァンは了承した。そうしてグレイは彼と手を組んだのだった。






しかし……



「あんたがタリス達を見つけた事を教えててくれりゃあ、もっとやりたい事も出来たンだ」



任務と並行しながら、タリスやヒースの捜索も行っていた。計画を決行して帰るとしても、一緒にいなければならない者達まで巻き込まれては意味がない。それに肝心の帰る方法も探さなければならなかったし、やる事は多々あった。なのに仲間捜しについてはとんだ無駄足だった。しかも敢えてバチカルには近付かせないように手を回されていたようで、これで怒らない訳がない。



「だがバチカルのファブレ家にいた事で、結果的にお前の仲間達は守られていたではないか」

「っ……それは」



そうだけど、とグレイは珍しく口篭る。ファブレ家と言えばキムラスカ王族の血筋家として国で最高の軍事力と権威を持つ。況してや秘預言の時までは軟禁状態であるルークの側にいたとなれば、これ以上の隠れ蓑はないだろう。



「それにお前はレジウィーダに計画の事は話さなかった。つまり、他の者達には知られたくなかったと言う事だろう」



それはヴァンの言う通りだった。こんな事、あの三人に知られれば面倒な事になるのは目に見えているし、何よりもただでは済まない。それだけは何としても避けたかった。例えこの世界に喚んだ誰かの意志にそぐわなくても、あの三人の誰かを失いたくはないのだ。


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