A requiem to give to you- 国境の砦(5/11) -
そう、それは彼の手を取った瞬間に起こったのだ。
「……………!?」
燃える街。辺りに散る人々の紅。武器を手に、駆け回る甲冑を纏う者達。幸せだった時間の終わりを告げた怒声、爆発、悲鳴……。
栗色の髪をした少年は大人に手を引かれて、まだ崩れていない建物に連れられた。そこで無理矢理大きな機械に繋がれた。
『────……――…』
『……──。───』
大人は白衣の者達と一言二言会話を交わし、その場を後にした。
『あの……これは……?』
ただならぬ不安に駆られながらも、何とか言葉を発すると安心させるように白衣の者達は微笑んだ。───……いや、微笑もうとしていたのだ。しかし実際には上手く行かず、死を覚悟したように諦め似た表情で哀しく笑っていた。
『……………』
それから白衣の者達は機械を弄り出した。すると機械は作動し、全身が引き裂かれるかのような痛みが走った。
『う、あああああああああっ!!』
たまらずに叫んだ。やめて、離してと泣いた。けれど誰も止めようとはせず、皆が皆、魂でも引き抜かれたようにその場から動かずに、目を閉じていた。
どうして……何で、何で僕はここにいるんだ!?
助けて! 誰か助けてよ!!
訳の分からない、制御の利かない力が己の内側から膨れ上がり、今にも弾けてしまいそうな感じがした。母上っ、父上っ……、と知らずの内に叫びと共に呼んでいる事に気が付けば、ふと脳裏に愛しき人達の顔が浮かび上がる。
父、母、己の家が使えるべき者達、そして……
『ティ………ア……』
まだ生まれぬ、けれど自分も母も待ち望む新たな"家族"の名を呟くも、皮肉にもそれは刹那に起こった爆発と崩落の音に掻き消された。
最後に見たのは、憎らしいほどによく晴れた青空だった───
確かなる覚醒を感じたのは、鋭い声だった。
「グレイ!!」
どこか焦ったように名を呼ばれハッとする。次いで今の己の状況を把握すべく辺りを見渡せば、つい先程自分が手を差し伸べていたヴァンに支えられていた。
「大丈夫か?」
「……まぁ、一応」
「いきなり倒れたから驚いたぞ。急にどうしたと言うのだ」
溜め息を吐きながら問われ、グレイは立ち上がりながら首を傾げた。
「知らねェ」
「自分の事だろう……」
と、ヴァンはどこか呆れ気味に言うが、何故かそれに肯定する気にはなれなかった。自分の事、それはどこか違うような気がしたのだ。自分と言うよりは、誰かの……記憶。
(今のって………)
どこか古風だが、優しく、白に覆われた街。その美しい情景が忽ち赤に包まれていく様は妙にリアルだった。だが、あんな街は自分達の世界にはない。
それに、
(あの力はなんだ? 街一つ軽くぶっ壊しちまうって一体……)
機械の操作をする直前に白衣の……恐らく研究員だと思わしき者達が何かを話していたような気がする。そう、それは確か……
「預言に………ホドを超振動で……とか何とか言っていたような……」
上手く聞こえなかったが、そんな事を話していた。しかし心の中だけで呟いていた筈のそれは、知らずの内に声に出ていたようだった。
「今、何と………」
突然向けられた殺気。驚愕に見開かれた目。そんな彼は先程までの温厚な成りを潜めていた。どうやら自分は、何かとんでもない地雷を踏んでしまったらしかった。
─―
──―
────
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