A requiem to give to you
- 国境の砦(4/11) -


ヴァンもその理由を何となく察しているのか、少しだけ閥が悪そうに顔を顰めながら「タリス達の事だが」と切り出した。



「私とて、最初から知っていた訳ではない」

「でも一年前の事件辺りにはもう知っていたよな。アイツらがオレや馬鹿女と同じだって事をよ」



何の脈絡もなく突然その話題を出したにも関わらず普通に返してくる辺り、ヴァンの勘は当たっていたらしい。タリスとヒースがグレイ達と同じ異世界の者だと知ったのは彼女らの力を見てからだ。それ以前は寧ろ、ルークに新しい使用人が増えたと言う事以外見た事はおろか、まともな情報すら知らなかった程だ、とヴァンは言う。



「だから何だよ。それでもオレにアイツらの事を黙っている理由にはならねェ。お陰でこの一年間無駄に過ごしたって事じゃねーか」

「そうか? 私はそうは思えなかったがな」



この一年間でグレイは随分と六神将の面々と親しく……とまではいかないが、彼らとの関係が深まったように思えた。元々、六神将ら自体が他人への干渉を好まない者達ばかりだったが、グレイと言う存在を通して確かにその距離も少しずつ縮まっていたのだ。その様子を思い浮かべていると、思わず口元が上がっていたみたいで、それに気付いたグレイがあからさまに嫌そうに眉を寄せた。



「何笑ってやがンだ。キモイな」

「いや、悪気はないのだ。ただ今の六神将らを見ていると、何だか微笑ましくてな」



そんなヴァンの素直な感想をもグレイは鼻で笑って一蹴する。



「ハッ、よく言うぜ。それが世界破壊を目論む奴の台詞かよ」

「世界破壊、か。違いないな」



ヴァンの目的は預言を覆す事。しかしそれは今の被験者【オリジナル】が生きる世界を破壊し、レプリカの世界にすり替えると言う突拍子もない方法で、だった。全ての被験者を殺し、そこにレプリカを造り世界に放つ。全て、と言うからには当然ヴァン自身や六神将らも含まれている。

彼らは元より命を絶つつもりなのだ。それ程までしてでも、ヴァンが消したいと言う預言。何故彼はそうまでして、"星の記憶"と呼ばれるソレを消したいのか。それをグレイが知る事となったのは、彼とその幼馴染み達がこの世界に来て、本当に間もない頃の話だった。






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ND2015。ルナリデーカン・ウンディーネ・25の日



「いきなり何をするのだ」



早朝の図書館からディストを探しに飛び出していったレジウィーダを見送り、少し仮眠を取ろうとウトウトしていると、ふとそんな声が聞こえ意識を戻される。人の睡眠を邪魔するなんてと機嫌を降下させながら声の方を振り向けば、今まで本の下敷きにされていたヴァンが何とも言えない表情で床に座り込んでいた。グレイは一瞬何故コイツはこんな状態でいるのかと疑問に思ったが、直ぐについ先程自分が彼の近くにあった本の山を崩した事を思い出した。



「ああ、ワリィワリィ。ちょっとした口封じってトコだよ」



と、あくまでも軽く返せば盛大な溜め息を吐かれた。



「それ程知られたくないのか、フィリアムについての事を」

「いーや」



そうじゃねーよ、と言って悪戯に笑えば案の定ヴァンは訝しげな視線を寄越してくる。



「ただ黙ってた方が面白ェと思っただけさ」

「面白い……本当にそうか?」

「今オレがあんたに嘘ついたって何のメリットはねーよ。それより、ほれ」



そう言って未だに座り込んだままのヴァンに右手を差し出す。



「軍の偉い奴がいつまでもンなとこに座ってンじゃねーや」

「誰のせいだ」

「さぁ? でもオレ様が特別大サービスで日頃苦労が絶えないと思われるオッサンに手ェ貸してやるってンだぜ。気が変わらねェ内にさっさと立てよ」



どこまでも自分本位なその発言は最早清々しいように感じた。そしてそれはどこか知り合いに似ていて、少しだけ懐かしい。そんな事を思うヴァンとは裏腹にグレイはさっさと彼の手を取った。














しかしこの時、気まぐれとは言え彼に手を差し出した事が、これからのグレイの役目を大きく変える切欠になるなど、誰にも想像する事は出来なかった。


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