A requiem to give to you
- 城砦都市(11/13) -



「ハッ、残念だったなァ。辞職の件ならオレとアッシュが保留にしといたぜ!」

「はぁ!? ちょっと何やってくれちゃってんのアンタ!!」

「今は代わりの副官はいるが、何分サボリ魔でよ。帰ったら相当仕事溜まってるぜェ」



ケラケラと笑うグレイにレジウィーダは「鬼ー!!」と叫んだ。……が、しかし一連の話を聞いていたヒースは疑問符を浮かべた。



「でもそれって、単にレジウィーダがダアトに帰らなければ良いだけの話じゃないか?」

「「え……?」」



それにタリスも頷いた。



「そうよねぇ。保留と言っても期間が決まっていない上に代わりの副官がいるのだし、そもそも騎士団が捜索を行っていないのならいつ戻っても戻らなくても文句は言われないと思うわよ」



彼女の言葉にグレイはピタリと石のように固まった。その隙に彼の手から抜け出したレジウィーダは嬉しそうに指を鳴らした。



「よっしゃ♪」

「し、しまった………」



保留じゃなくて継続にすりゃ良かった、とグレイは嘆く。それにレジウィーダはザマアミロと舌を出して笑っていたが、それが彼の堪に触れたらしく再び拳骨が降ってきた。



「いったぁー!」

「ンのヤロー……それなら纏めて連れ帰るまでだし!」

「あら、グレイ。それは無理よ」

「あン? 何でだよ」



ムッとしてタリスを見れば、彼女は悪戯に笑ったのだった。



「気付かない? 何の為に私達が揃って貴方の所までやって来たのか」

「…………!」



そう言われて漸く気付いたらしく、グレイは途端に後退りを始めた。



「偶然なのか必然なのか。それはわからいけど、つい昨日までバラバラだったのにこうして皆で再会する機会が持てたのよ。コレを逃すつもりは……ないのよねぇ」

「ハハッ……お嬢さん、目が笑ってませンぜ」

「そりゃアレだ。それだけ僕達が本気だって事だよ」



ポンッと彼の後ろに回り込んだヒースが彼の肩を叩く。



「だから諦めろ」

「いや諦めるも何も……つーかテメェ何で縄なんてモッテルンデショーカ」



え、マジ怖いンだけど。驚くべき行動に出た親友にドン引きするグレイ。それにいつの間にか傍観側に回っていたレジウィーダが桜の花弁を弄りながら口を開いた。



「何でって、縄の使用用途なんて限られてるよなー」

「ねぇ」

「だな」



ジリジリとにじり寄るタリスとヒースにグレイは乾いた笑いしか出なかった。






そして次の日……






「ルーク、やっぱりあと一人増えるわ」

「は?」

「…………よう」



ぶはぁっ



早朝一番のタリスのそんな言葉と共に連れて来られた人物にルークを始めスープを飲んでいたガイ、ティアが噴き出した。ジェイドだけは何とか耐えていたようだが。



「あらあら、皆朝からはしたないわよ」

「いやいや、ちょって待てよ! 何でそうなるんだっつーの!!」



ダンッとルークがテーブルを叩きながら怒鳴る。



「つーか何でコイツがここにいるんだよ!?」

「簡単な話さ」



ルークの問いに答えたのはバンダナを頭に巻きながら現れたヒースだった。



「僕達が連れてきたからな」

「でも、彼は敵なんじゃ……」



と、ティアの尤もな言葉に一同頷くが、ヒースの後からイオンと一緒に来たレジウィーダが「まぁまぁ」と言った。



「要はコイツにイオン君の護衛をさせれば良いんだよ。アニスもいないし、それに最高権力者のイオン君の命令って事なら大詠師よりも上なんだし、筋が通るっしょ」

「すっげー無理矢理だけどな」

「でもイオン君もそれが良いって喜んでたじゃんか」



だよね、とレジウィーダがイオンを向けば彼は柔らかな笑みを浮かべながら頷いた。



「はい、その方が楽しいと思います」



そう言う問題なのか、と一同は思ったが何とか口には出さず。ジェイドはゆっくりとスープを飲み終えると、眼鏡を指で押し上げながら言った。



「まぁ、イオン様が認めていらっしゃるのなら良いでしょう」

「大佐……」

「そんな簡単に容認しちまって良いのかよ死霊使い。裏切るかも知れないぜ?」



心配そうなティアに同意するかのようにグレイ本人もそんな挑発的な言葉を吐くと、ジェイドは彼に負けないくらいの笑みを浮かべた。



「ですが貴方はタリス達を裏切る事は出来ないでしょう。でなければ、六神将補佐ともあろう者がそんな一般人に易々と捕まる筈がありませんしね〜」



それすらも芝居であるなら別ですが。そう眼鏡の奥を鋭くさせて言うと、グレイは言葉を呑み込んだ。



「まぁ……もしもその時はこちらも容赦は致しませんので、そのおつもりで♪」



と、おどけたように言ってはいるが、その目はやはり鋭いままで、彼の本気が伝わった。そんなジェイドにグレイは鼻で笑い飛ばした。



「ハッ、上等だぜ。そン時はオレもあんたの首を刈り取ってやるよ」

「グレイ」



タリスがグレイの名前を呼んでギュッとコートを掴むと、それを見た彼は肩を竦めた。


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