A requiem to give to you
- 城砦都市(10/13) -



「けど、今日はずっと留まっていると思うか?」

「大丈夫でしょう。何だかんだでもう直ぐ日も落ちるし。……ただ、どうやって接触するかねぇ。この街じゃあ、どこに行くかの検討もつかないし」



それにヒースも困ったように考え込んでしまった。その時、不意に二人の背にレジウィーダがのし掛かってきた。



「わかるよ」

「「え!?」」



それは本当か、と二人はレジウィーダを見ると彼女はうんと頷く。その後ろではガイに救出されたルークがミュウを潰しながらジェイドにキレ、それに更にティアがルークを怒鳴り、イオンがそれを見て苦笑していると言う光景が目に入ったが、この際気にしないでおこう。



「アイツがこの街に初めて来たって言うのなら、行く所は一つしかないと思う。多分、時間も人が彷徨くような時じゃなくて、もっと夜中……とかにね」

「それは……?」



と、ヒースが問うとレジウィーダは二人から降りてニヤリと笑った。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







夜。セントビナーの中心部にあるソイルの樹の前に、グレイはいた。春の強い風で舞う桜の花弁を少しだけ鬱陶しそうにしながらも、彼は目の前の大樹を念入りに調べていた。

が、しかし……



「チッ、やっぱり違うか。一番ソレっぽいと思ったンだけどなァ」



はぁ、と苛立ちながら溜め息を吐く。どうやら彼の望む結果は得られなかったらしい。グレイはあーと頭を掻くとその場にしゃがみ込んで樹を見上げた。



「クソッ、また振り出しかよ。面倒臭ェなーチクショー」



もしかしたらコレがこの世界の"門"かも知れない、そう思っていた。だけどそんな希望も杞憂で終わってしまった。何だか地味に落ち込む。そんな彼の心境などお構いなしに辺りにある桜の木々から舞う花弁は月明かりに照らされて、それがどこか神聖で、そして美しかった。それが余計に彼を苛つかせたが、グレイはヒラヒラと落ちてきた花弁を一つ手に取ると「そう言や」と思い出したように呟いた。



「桜、か……どっかの馬鹿女が好きだったな」

「あー覚えてたんだ。意外だねー」

「ハッ、何言ってやがる。オレの記憶力を嘗めンじゃねーぞ」

「そうよねぇ。貴方の場合って物を覚えられないんじゃなくて、覚える気がないだけなのよねぇ」

「まぁ、そうとも言うな」

「威張れる事じゃないだろ。お前馬鹿だろ」

「誰が馬鹿だ!















…………って、は?」



ここで漸くグレイは己が誰かと話をしている事に気が付き、慌てて振り返った。するとそこには三人の見覚えのある人物達がこちらに手を振っていた。



「はぁいグレイ。タルタロスぶりねぇ」

「あたしは一年ぶりー。生きてるようで良かったよ」

「よう」



と、三者三様にそう言うと三人はグレイに近付いてきた。



「お前ら………

























あたかも何事もなかったかのようにしてンじゃねーぞそこの馬鹿女」

「いてっ」



感動の再会をする気は皆無。グレイは素早くレジウィーダの目の前に来ると拳骨を落とした。



「つ〜っ、ちょっと何であたしだけ!?」

「ああ? テメェ、忘れたとは言わせねーぞ。一年前に雪の降る海ン中に沈められた事……」



お陰でますます寒いのが駄目になったじゃねーか馬鹿野郎!

そう言ってグレイはレジウィーダのピョンと生えた触角のような髪の毛を勢い良く引っ張った。



「いたたたたたたっ! 痛いっ、痛いってばー!!」

「喧しいわ! このタコ! 赤豆ペンギン擬きが!」

「酷っ、自分だって狼みたいな癖にー! それにペンギンって言っても今はもう神託の盾じゃないから軍服着てないもんね!」



どうだ参ったかと言いたげに何故か勝ち誇る(涙目だが)レジウィーダ。しかしグレイはニヤリと意地の悪い笑みを浮かべたのだった。


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