A requiem to give to you- 城砦都市(8/13) -
その時、ヒースの頬引張りから抜け出したレジウィーダが口を開いた。
「あのさーあたしはー?」
………………。
『忘れてた……』
全員の声が見事に揃った。
「うん、何かもう酷いよね。色々と」
「大丈夫だよ。君もだから」
とヒースのツッコミが決まる。それにレジウィーダは引っ張られたせいで若干赤くなった頬を膨らませて憤慨した。
「ムッ、そんな事ないぞ」
「そんな事あるよ」
「そんな事あるわよねぇ」
「うわーん、イオン君ーヒースちゃん達が虐めるよー」
「あはは……」
タリスにまで突っ込まれたレジウィーダに泣き着かれたイオンは苦笑いだった。しかしルーク達は彼女の言葉にピタリと動きを止めたのだった。
「ヒース……ちゃん?」
「ちゃん……」
「ちゃん」
「ちゃん♪」
「ちゃんですの!」
「一々繰り返さんで良い」
と、またもやヒースのツッコミが決まった。しかしルークは笑いを堪えているのか、肩を奮わせ口元を押さえている。
「いやだって、ヒースちゃん……ヒースちゃんって! 俺よりヒデェ……プ、ククッ」
「……………この野郎」
いい加減殴るぞ、とヒースが拳を構えたところでレジウィーダが挙手をした。
「はいはーい、質問でーす」
「あら、どうしたの?」
「あたし、まだここにいる全員の名前がわかりません」
『…………………』
それに再び一瞬の沈黙が襲うも、今度は直ぐに持ち直すとガイから名乗り始めた。
「俺はガイだ。タリスやヒースと同じく、ファブレ家の使用人をしているよ」
「あ、もしかして前にルークが電話で話してた女嫌いの人だね」
「そうそう」
「違うからっ!」
頷くルークにガイは慌てて訂正を入れる。
「女嫌いじゃなくて………まぁ、何て言うか……恐怖症って言うか。とにかく、どうも昔から女性には触れないんだ」
「そうなんだ。うーん、なかなか難儀だねー」
「ははは、まぁな」
レジウィーダの言葉に苦笑して返すと、ガイはティアにバトンタッチした。
「私はティア。神託の盾騎士団のティア・グランツ響長よ」
「グランツ? え、もしかしてヴァンの血縁者的な?」
「えぇ、まぁ………ヴァンは私の兄にあたるわ」
どこか言い辛そうにしながらも紡がれた言葉にレジウィーダは意外そうにマジマジとティアを見た。
「あのヴァンに妹かー。ティアさんっていくつ?」
「私は今年で16になるわ」
「って、事は今………15歳?」
「えぇ。だからって言うのも変だけれど、私の事はティアで良いわ。よろしくね」
「え、あ……うん。よろしくっす?」
(15………あー……でもヴァンもヴァンだし)
ちょっと納得?、などと微妙に失礼な事を考えながらもレジウィーダはティアと握手を交わした。それから最後に残ったジェイドを見ると、彼は一歩前に出て名乗った。
「私はマルクト帝国軍のジェイド・カーティス大佐です。ところで一つ良いですか?」
「? はいはい何でしょー?」
ジェイドの問いにレジウィーダがそう返すと、彼は眼鏡のブリッジを指で押し上ながら彼女の頭を見て言った。
「何だか違和感が半端ないので外しませんか、そのカツラ」
「おぅ? バレてた?」
気付かれていた事に驚きながらもそのオレンジ色の髪(カツラ)を触りながら言えば良い笑顔で頷かれた。
「えぇ………ズレてますしv」
その言葉に「え゙っ」と慌てて頭を押さえながら皆を見れば一様に頷かれてしまった。
「えええええっ!? ちょ、皆何で言ってくれなかったんだよー!」
めっちゃ恥ずかしいじゃん、と言うとティアが戸惑いがちに返した。
「いえ、あの……いつ言おうか、タイミングが掴めなくて」
それ以前にその妙なカツラをつけている事自体は恥ずかしくないのだろうか。そんな事を思っているティアにレジウィーダは顔を赤くしながら腕を振った。
「そう言う時は言ってくれて構わないから!」
言われなければその分だけ恥ずかしい姿を晒していた事になる。いや、寧ろ既にずっと晒していた事に気が付いたレジウィーダは目眩がしたのだった。
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