A requiem to give to you- スウィーツとヒーロー(9/9) -
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「アビスマンレッド、さんじょー!!」
「アッハハハハ! 来たなアビスマン。この悪の魔女、レジウィーダ様が君達を倒してやろうぞ!!」
「ムムッ、そんなことはさせないぞ! みんなーでてこーい!」
赤いバンダナを首に巻いた少年がそう言うと、木の陰から五人の仲間が現れた。
「アビスマンブラックだぜ!」
「アビスマンピンクよ!」
「アビスマンイエロー、かれいにけんざーん!」
「ちてきなアビスマンブルー、わるいやつにはおしおきです」
「……アビスマングリーンでーす」
と、最後に出てきたのは緑のバンダナを頭に着けたヒースだった。その余りの活気のなさにレッドは怒った。
「グリーン! もっとげんきよくいかないと悪の魔女にやられちゃうぞ!」
「んな事言われたって……」
何で僕がこんな事を……と、頭垂れる。元々レジウィーダが今日は子供達と『アビスマンごっこ』をして遊ぶ約束をしていたらしいのだが、丁度一人風邪で来られなくなった子が出たとかで、急遽ヒースが代役を務める事となってしまったのだ。
(16にもなって戦隊ごっこ……)
なんて思っているとレジウィーダも少年に便乗した。
「そうだぞヒースちゃん、いやアビスマングリーン! あんまりにも元気がないと、この悪の魔女がスペシャルな魔法でこーんな格好にさせちゃうぞ☆」
そう言ってレジウィーダが出してきたのは先程出会ったアニスが着ていたのとよく似たあのやたらと短いスカートの服だった。
「……………」
ヒースは無言で木刀を構えると、一度大きく息を吸い……
「悪の魔女め! 今日こそ我らアビスマンが成敗してくれるわ!! 行くぞレッド、皆!!」
『おおー!!』
自棄になって叫んだ。しかし子供達はにはそんな事は関係はなく、喜んでそれぞれの玩具の武器を持って走り出した。
そして数時間後……。
「アビスマングリーン、きょうはとてもかっこよかったぜ! そのバンダナはりっぱなせんしのくんしょう……そしておれたちのゆうじょうのあかしだ! ぜひうけとってくれ!!」
「………それは、どうも」
ぶっ続けで遊び通して疲れ切ったヒースは少年のどこまでも熱い言葉に苦笑して返した。そうして満足した子供達が帰るのを見送り、漸く大きく息を吐いた。
「はぁ、疲れた」
「とか何とか言っちゃって、自分も結構楽しんでた癖に」
あー珍しい、と笑うレジウィーダに「そうだな」と返す。
「これでも小さい頃は戦隊物とか大好きで、よく遊んでいたものなんだよ。ヒーローとか勇者とか、凄く憧れた」
自分もこんな風になれたらな、とかよく思ったりもしていた。いつからか、こう言う気持ちも次第に忘れていったが……。
「でも、たまにはこう言うのも良いな」
「そうだね。それにヒースちゃん、そのバンダナ似合ってるよ」
何だか勇者みたい、と言われて思わず照れくさくなる。
「そうかい?」
「うん。……あ、じゃあいっその事勇者になったら良いんじゃね?」
「どう言う事だ?」
首を傾げながらそう問うと、レジウィーダはニッと笑った。
「預言」
「! ああ、そうか」
自分達にはやるべき事がある。確かに物語の勇者みたいに世界を救う、なんて大それた事なんて出来るわけがない。でも、世界は無理でも大切な人達を守る為になら、その為の勇者だってありかも知れない。
(……なんて、ちょっと子供っぽかったかな)
でもその思いは変わらない。今度こそ………そう、今度は自分の手で、守ってみせる。ヒースは子供達からもらったバンダナを握り締め、己の決意を固めたのだった。
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