A requiem to give to you
- スウィーツとヒーロー(7/9) -



「恩とか、そう言うのではないけれど………大切だから、失いたくないんだ」

「まるで、昔に何かを失った事があるような言い方だな」



そう言われ、ヒースは思わず掌を強く握り締めた。



「失ってはいない……いや、ある意味失ったんだと思う。けれど、それに一番傷付いた人達に僕は何もして上げられなかった」



僕には失ったモノを元に戻す事は出来ない。けれど……



「これ以上失わない為に、支える事は出来ると思うんだ。だから僕は、行きたい」



そう言ってヒースはもう一度トゥナロに頭を下げる。彼の言葉に嘘はない。それはトゥナロにもよくわかっていた。彼が本気だと言う事も。

トゥナロは一度大きく息を吐くと、やれやれと肩を竦めた。



「本当にお前らって、どいつもこいつも似てるよ。考え方が」

「? それは、」



どう言う事だ、と問うとトゥナロは頭を振り、突然真面目な顔付きになり何かを紡ぎ出した。



「『ND2000、ローレライの力を継ぐもの、キムラスカに誕生す。其は王族に連なる赤い髪の男児なり。名を聖なる"焔の光"と称す。彼はキムラスカ・ランバルディアを新たな繁栄に導くであろう』」



それは直ぐに預言だとわかった。言葉の途中に出てきた『聖なる焔の光』とは確かルークの事だった筈だ。と、言う事はこれはルークの誕生の預言なのだろう。しかし何故に今それを、とヒースは疑問に思ったが、それは直ぐに次に聞いた預言によって吹き飛んだ。



「『ND2018、ローレライの力を継ぐ若者、人々を引き連れ鉱山の街へと向かう。そこで若者は力を災いとし、キムラスカの武器となって街とともに消滅す。しかる後にルグニカの大地は戦乱に包まれ。マルクトは領土を失うだろう。結果キムラスカ・ランバルディアは栄え。それが未曾有の繁栄の第一歩となる』」



衝撃だった。まるで鈍器で頭を殴られたかのような、そんな感覚。



「待てよ……それって……」

「秘預言【クローズド・スコア】。今詠んだのは、聖なる焔の光の最期が刻まれた預言だ」

「そんな事って………」



ルークは……ずっと屋敷に軟禁されていて、まだ外の事を知らない。不可抗力とは言え、初めて外の世界を知る事になった彼はこれから色々なモノを見て感じ、学び知ると思う。それは彼がずっと憧れてきた事だ。そもそも今の預言を聞く限りでは、あの襲撃事件がなくとも外へは出られると言う事になる。だがそれも死出の旅、だ。それはいくらなんでも……悲し過ぎる。



「何とかならないのか……」

「それはヒト次第だろうが、今のままでは預言を覆すのはまず無理だ。……だが、切欠を作る事なら出来る」



え、とトゥナロを見る。



「世界は既に変わり始めているんだよ。預言が詠まれない者達によって」

「それって……僕達の事か?」



いつだったか、フィーナが言っていた。自分達には預言がないのだと。だからこそ、偽りの預言を周りが信じてもらえたのだが(それはそれで結構心苦しい物もある……)



「お前達だけ、とは限らないけどな」



そう呟いて彼はもう一度大きく息を吐き、それから真っ直ぐとヒースを見た。



「今の預言を聞いて、お前はどうだ? 直ぐになくなる命とわかって、それでも守りたいと思うか?」



それにヒースはしっかりと頷いた。



「守りたい。それにお前が言ってた事が確かなら、覆す可能性があると言う事なんだろう? いや、例え可能性がなくても、作ってみせるさ」



その時はタリスだって宙だって協力させるし、それに面倒臭がりな割に何だかんだで面倒見の良いアイツだって引き入れて足掻いてやる。



「そうか………ククッ、やっぱりお前らは面白ェな」



何故か突然笑い出したトゥナロに馬鹿にされたような感じがしたヒースは眉間に皺を寄せた。
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