A requiem to give to you- スウィーツとヒーロー(3/9) -
「つーかそれって、タリスがよく屋敷で話してた霊魂【ファントム】って奴だろ?」
そんな事も出来たんだな、とルークはまじまじと縫いぐるみを見た。意外と順応が早いらしい。
「霊魂、ですか。その力は一体……」
「突然変異術、だと思ってくれて構わないわ」
だって、そうとしか表現しようがないんだもの。訝しむジェイドにタリスはそう言った。それに今度はイオンが反応した。
「例の裏技、ではないのですか?」
「例の裏技?」
思わず聞き返すと、イオンは頷いた。
「はい、ある人が……そう言った不思議な力の事をそのように呼んでいた事があるので」
「それって、あのグレイって奴か?」
「あ、いえ………彼ではなくて、彼のもう一人の幼馴染みの方です」
「! その子も神託の盾にいるんですか?」
誰の事だか直ぐに察しがついたタリスがイオンに詰め寄ると、彼は少し悲しそうに首を振った。
「今はいません。彼女は一年ほど前に突然ダアトを去ってしまったので……」
「そう、ですか………でもまぁ、あの子なら大丈夫かしらねぇ」
「どうしてわかるんだよ?」
ルークが問うと、タリスは心なしか嬉しそうに答えた。
「だって、あの子だもの♪」
「いや、答えになってぬぇっつーの」
ルークが頭垂れながら突っ込んだ言葉に一同も頷く。
「……………」
そんな中で、ジェイドだけは何かを考えながらタリスを見ていた。そして縫いぐるみは既に元の大きさに戻り、動かなくなっていたのだった。
*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇
「それじゃあ、手紙の方は大佐にお願いしますね!」
そう言って可愛らしい笑みを浮かべてマルクト軍の基地を出たアニスはうーん、と背伸びをした。
「良い天気〜。ほんっとにこの街見てるとマジやば〜って感じに見えないよね」
と、言ってからハッとするとそのボリュームのあるツインテールを揺らすように首を横に振った。
「なーんて、言ってる場合じゃないよね! 早いとこ次の目的地に行かないと」
このままここでジェイド達を待っても良かったが、それよりも先に神託の盾が来て彼女の持つ親書を奪われては元も子もない。だからアニスはジェイド(とルーク)への手紙を残し、次の合流地点であるカイツールへと向かう事にした。
……その時だった。
「アーニス♪」
ポンっと突然横からそんな声と共に肩を叩かれ、「はうあっ」と悲鳴を上げた。それに相手も少し驚いたような声を上げるが、それは直ぐに笑いに変わった。
「あはは、すごい驚きようだね」
「え……レジウィーダ!!?」
予想外の人物にアニスの目はこれでもかと言う程見開かれた。
「な、何でここに………って言うか、何それ?」
と、レジウィーダの肩に担がれているモノを指さして問う。どう見ても、人に見える。しかも明らかに担いでいる彼女よりは大きい。
「ああ、これ? 拾った♪」
決して、間違いではない。しかしそれは実際にその瞬間を目にした訳ではないアニスにとっては差して重要な事でもなく、取り敢えず生きてはいるようだしと深く追求するのはやめる事にした。
「う………ん……ここは?」
「あ、レジウィーダ。その人起きたみたいだよ」
アニスがそう言うと、レジウィーダは覚醒しかけている相手に話し掛けた。
「はよーす、大丈夫かい?」
「…………………」
今ので完全に目が覚めたのだろう。暫し瞬きをしながら固まっていた相手は己の状況に気付くと途端に暴れ出した。
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