A requiem to give to you- スウィーツとヒーロー(2/9) -
「へっ、次来いよ!」
「ルーク、調子に乗らないで!」
「チッ、わかってるよ」
厳しい指摘をするティアに舌打ちしつつ、次の敵に向かう。神託の盾の追撃から逃れた後、ルークは改めて皆に戦う決意を告げた。ティアとガイは最後まで反対の意を唱えていたが、タリスと(意外にも)ジェイドが彼の意を尊重した事により、ルークも参戦する事になった。魔物は勿論、既に盗賊やなんかの人間とも遭遇しており、ここに来るまで何度か戦いになった。その度に剣を振るい、彼らの命に手をかけた。震える手を、感情を抑え、自分達が生きる為に歩みを止めなかった。
「ぐっ……!」
「! ガイ!!」
小さな呻き声が聞こえ、そちらを振り返るとガイが三体のプチプリのアタックを防ぎ切れずに倒れていた。小さくとも魔物。攻撃を受ければ怪我をする。ルークは直ぐにガイに次なる攻撃を仕掛けようとするプチプリを剣で斬りつける。その間にティアがガイの回復をした。
「それにしても、今回は随分と数が多いですね」
ジェイドが術を放ちながらそう呟いた。封印術で威力は激減したと言う割には、先程からほぼ一撃で魔物を葬り続けている。そんな彼の眼前にはまだまだたくさんの魔物達がこちらに向かってきていた。
「何だかウザくなってきたわねぇ♪」
楽しそうに言うべき内容ではないとその場にいた全員が思ったが、これがタリスの通常運行なので最早ツッコミは入れない事にしていた(人はそれを諦めたとも言う)
「狂乱せし地霊の宴よ………ロックブレイク!」
「水流よ、噴き上がれ……スプレッド!!」
ジェイドとタリスの譜術が放たれる。中級譜術にしてはその範囲は広めで、敵を一掃するには適した術だと言える。ただ範囲が広い分、威力も拡散しがちで倒すまでには至らない。そこで前衛であるルークとガイがトドメを刺しに行く。
「なぁ、ガイ」
敵を斬り付けながらルークが努めて冷静に隣にいるガイを呼んだ。ガイもルークの言いたい事がわかるのか苦笑していた。
「アレが気になるんだろ?」
そう言えばルークは見るのは初めてだったよなぁ、と呟くガイが指さすのは元はアニスが背負っていて、今はタリスが持っていた縫いぐるみだった。それが何故か巨大化し、独りでに動いては魔物を殴り倒している。この戦闘が始まってからずっと、だ。
「さぁ、あと少しよ。一気にやっちゃって下さいねぇ」
『了解や♪』
しかも喋っている。あのティアでさえ度々そちらに気にしては何故か頬を染めているし、ジェイドに至っては面白そうに笑うだけ。イオンは……どことなく納得したような顔をしていた。
「あと一匹です。ルーク」
ジェイドの言葉にハッとし、最後の一匹を斬る。死んだ魔物が音素に還った事により、漸くこの戦闘が終了した。
『おー、ようやっと終わったなぁ』
………………。
「……で、お前誰だよ」
シンと静まり返った中、約一名を除いた皆の心境を代表したルークが縫いぐるみに問い掛けた。
『おれ? おれは通りすがりの幽霊や』
「ゆっ………!!?」
と、ティアの顔がいきなり青褪めた。そこで今まで黙っていたタリスが口を開く。
「ちょっと、いきなりそう言ったら苦手な人が昏倒してしまうわ」
『そないな事言われても、他に何て言いはったらええのかわからんしなぁ』
そう言って頭を掻く自称幽霊にタリスもそれもそうかと納得する。それを聞いたティアが目に見えて引いていたが、これは仕方がないと一同は同情した。
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