A requiem to give to you
- 戦場の再会(10/10) -


そのまま相手が崩れ落ちるのを確認すると、ティアはタリスを振り返った。



「ありがとう、助かったわ」

「いいえ。それよりガイ達の援護を!」



タリスの言葉に頷くと、ティアはガイとジェイドの元へと急いだ。そしてタリスもまた追い掛けようとした時、後ろにいたイオンが叫んだ。



「タリス! 横!!」

「………!?」



いつの間にか間合いに入られ、敵は武器を振り上げていた。



「しまっ………」

「死ねぇッ!!」

「させるかああっ!!」



敵が剣を振り下ろすより早く、ルークが己の剣を抜き相手の背を刺した。



「ぐっ……ふ……」

「ルーク!」



敵が倒れるのを確認しないままタリスはルークに駆け寄る。慌てて覗き込んだ彼の顔は蒼白で、剣を握る手はガタガタと震えていた。



「刺した………また……俺は、殺し……た……!」

「落ち着いてルーク!」



タリスはルークの震える手を掴むと両手で包んだ。



「大丈夫よ、ルーク。貴方は私を助けてくれたの」

「けど……俺は……」

「確かに彼の命を奪ってしまった……それをさせない為に、私がいたのに……ごめんなさい」



その言葉にルークはハッと我に返るとタリスの手を振り解いた。



「ルーク?」

「ばっ……違う! 俺はそんな事頼んでない!!」

「けど、ルーク」



必死に頭を振って否定するルークに流石のタリスも困ったように眉を下げた。



「俺は……お前に守られなくちゃならない程弱くないっ……いや、弱くはなりたくないんだよ!! お、俺だって……俺だって戦える! 俺だって……お前もイオンも皆も守れるんだ!!」

「ルーク……けどそれは」

「相手の可能性を奪う事だってんだろ」



ティアも言ってたよ、とルークは一度大きく深呼吸をするとキッとタリスを見た。その目は未だに恐怖に震えてはいたが、しっかりとした決意を秘めて彼女を映していた。



「それでも俺は戦う! 確かに人を殺すのは恐ェけど、俺だけ守られてるなんてのは嫌だ!」

「……………」

「俺も一緒に背負う」



そこまで言われてしまえば、タリスはもうそれを否定する事は出来なかった。仕方ない、と一つ息を吐くと頷いた。



「わかったわ。なら、私は貴方の意志を尊重しましょう」

「タリス……!」



パッとルークが顔を明るくする。それがおかしくて小さく笑うも、直ぐに表情を引き締めると未だに苦戦を強いられているジェイド達を向いた。



「そうと決まれば、彼らを助けに行きましょう!」

「ああ!」

「イオン様は近くに隠れていて下さい。直ぐ戻ります」



そう言ってイオンが頷くのを確認すると、タリスとルークは武器を持ち直して駆けだした。





*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







「汚さずに保ってきた、手でも汚れて見えた。記憶を疑う前に、記憶に疑われてる……──」



風に揺られる花を見ながら小さく歌を口ずさんでいると、不意に背後から気配を感じた。



「トゥナロさん」



振り返った先には金髪に隻眼の青年……トゥナロがいた。トゥナロは荷物の入った袋を担ぎ、杖を片手にいつでも旅立てる準備が出来た状態だった。



「もう行くの?」



そう問えばトゥナロは「ああ」と頷いた。



「お前の目的の物は手には入ったんだろ?」

「あ……うん、コレね」



そう言ってこの旅で身に付けたコンタミネーションでパッと第一音素を纏う黒い槍を取り出して見せる。それを見たトゥナロはもう一度頷くと彼女に背を向けた。



「なら、ここには用はない」

「次はどこ行くんだ?」



そう問えば「さあな」と、何とも微妙な答えが返ってきた。



「何だよそれー」

「レジウィーダ・コルフェート」



不貞腐れていると、不意にフルネームで呼ばれた。



「近々、この町で面白い事が起こるぜ」

「面白い事?」



なんだそれはと問うと、彼は人の悪い笑みを浮かべた。その笑い方はどこかの誰かにそっくりだと常々思うが、言ったところで流されるだけだとこの一年間で嫌と言うほど学んだのでもう突っ込みはしない。



「そう、面白い事………と、言うよりお前がソレを起こしたくなるようなモノが近々ここにやってくる」

「???」



ますます意味が分からなかった。自分が面白い事を起こしたくなるようなモノ……まるで想像がつかない、とレジウィーダは首を捻った。そんな彼女の紅い髪をぐしゃぐしゃと撫ぜると、トゥナロはクッと笑った。



「難しい事は一々考えるな。お前はただ"その時"を待っていれば良いんだよ」



そう言う事だから、と言うとトゥナロは今度こそ踵を返すと手をヒラヒラと振って立ち去った。一人残されたレジウィーダは結局"その時"が来るまで首を傾げ続ける毎日を送ったのだった。













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『カルマ』より歌詞一部引用しました。
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