A requiem to give to you
- 戦場の再会(4/10) -


タリスは彼に背を向けて歩き出す。それにグレイは慌てて追い掛けようと足を動かそうとしたが……



「なっ……動け、ねェ!?」



彼の足元が凍り付き、それはみるみると範囲を広げ直ぐに腰の辺りまでに来た。グレイはそれをしたであろう張本人を見ると、彼女は悪戯が成功した子供のように小さく舌を出して笑っていた。



「ごめんなさいね。でも今は……彼を守らないと」

「涙子……お前っ」



ググッと力を入れるが凍り付いた下半身はビクとも動かない。せめてもと彼女へと手を延ばすが、それも空を切るだけで意味をなさなかった。

そんな彼にタリスは三度目の訂正を入れた。



「"タリス"よ。貴方がこの名を呼べるようになったら、また会いましょう。……それじゃあね、
















"グレイ"」



そう言うとタリスは今度こそ彼に背を向けて走り出した。

それから牢を脱出したジェイド達によってタルタロスの機能が停止したのは直ぐ後の事だった。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







タリスは明かりの消えた通路を走っていた。先程ジェイドの声が艦内に響いて、それから突然タルタロスの全ての機能が止まってしまったのだ。これ程の事が出来るのならば、恐らく無事なのだろう。多分彼の側にはルーク達もいると踏んだタリスは彼らを探す為に更に足を早めた。



「ルーク達、どこかしら。早くしないと……」



足元をアレだけ凍らせてきたのだから、暫くグレイは動けないだろう。その分、自分の存在が敵に知らされるのは遅くなるのだろうが、油断は出来ない。幸い今殆どの神託の盾兵はタルタロスの復旧に回らせているらしく、タリスと遭遇する事はなかった。



(敵、ねぇ……)



グレイ……陸也は神託の盾騎士団にいた。こんな大それた襲撃なんてやってのけるのだ。彼はこの二年間の間で相当な戦闘技術を磨いたのだろう。力を付けて、人を殺めて……彼は何の為にそれをするのだろうか。自分達を探す為だったら、彼の事だからいつまでも同じ所に留まったりはしない筈だ。



(もしかして、あの人は)



彼は自分と同じく新たに守るべき大切なものが出来たのだろうか。それだったら喜ぶべき事だ。だが、タリスにはそれが出来なかった。

もしもそうではなく、もっと別な理由があったら?
もしも、何か大きなモノを抱えていたのだとしたら……?

彼の場合は昔からこの傾向が強い所がある。だから心配なのだ。



「いつかちゃんと、話をしなければいけないわね……」



ちゃんと、彼と向き合って。でもその前に、タリス自身も覚悟を決めなくてはならない。恐らく、このままバチカルへは無事に帰る事など出来ないだろう。少しでもあの朱色の少年を守れるように、彼女も武器を手に取り戦う覚悟を……。

ギュッと人形を持つ手に力が入る。その時、タリスはある部屋に通りかかった。



「あれは……」



暗い部屋の奥にある物に目を留めると、タリスは躊躇なくソレを手に取ったのだった。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







「無様な姿だな」



アッシュは呆れた様に目の前で半分凍り付いているグレイに向けて言った。それに言われた当人は不服そうに顔を歪めたのだった。


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