A requiem to give to you- 戦場の再会(3/10) -
これは流石に予想通りだったのか、リグレットはそれは深い溜め息を吐いた。
「……お前がそう言うのなら、良いだろう。だが、」
リグレットは再び目を鋭くするとグレイにしっかりと釘を打った。
「まだ任務中だと言うのを忘れるな。一応牢に閉じ込めたが、艦内にはまだ死霊使いらがいる。私はこれから鑑橋にいるフィリアムを伴い、導師を連れてシンク達と合流して用事を済ませてくる」
「アンタが戻ってくるまで、鑑橋を奪還されないようにしろっつー事だろ?」
グレイがそう言うと、リグレットはしっかりと頷く。そして思い出したようにライフボトルを取り出すとその蓋を開けてグレイに渡した。
「では、私はもう行くぞ。ラルゴの事は任せた。アリエッタは鑑橋にいるが、こちらに向かわせよう」
「サンキュ」
短く礼を言い、導師を連れて行ったリグレットを見送ると、グレイは一旦タリスから離れ、ラルゴにライフボトル飲ませた。すると血は止まり、先程までは真っ青だった顔も幾分かマシになったようだ。
「……これで良し。後はアリエッタが何とかすンだろ」
「陸也……」
名を呼ばれ、「ン?」と今まで黙っていたタリスを振り返る。彼女の表情はどこか暗かった。
「怖かったか?」
こんな戦場など体験したのは初めてだったのだろう。滅多な事では動じない彼女がこのような顔をするのだ。グレイは慣れない手付きで彼女の髪を撫ぜると、タリスは小さく口を開いた。
「怖いわ……貴方が」
「………!」
ピタリ、とグレイの手が止まる。
「この二年間。私は殆ど外へは出なかった。だからこの世界の姿なんて、それ程知っている訳じゃない」
タリスはそう言って頭の上にあるグレイの手を取り、己の両手で包んだ。
「私は今ね、聖と一緒にある貴族の使用人をしているの」
「!?」
「その人はついこの間まで外に出る事が出来なくて、世の中の事はまるで知らなかったの。私と聖はそんな彼に自分達の知る外の事を話したり、時に遊んだりして過ごしたわ」
その言葉を聞き、グレイは先程出会ったアッシュのレプリカを思い出した。
(アイツの所に……いたのか)
「陸也、私は貴方が怖いの」
と、もう一度そう言うとタリスは彼の手を包む両手を強く握りしめた。
「私があの世界の閉ざされた空間で過ごしていた中で、貴方がこの手で何を持ち、何をしてきたのかは何となくわかったわ。でも…………そのままどこへ行ってしまうのかがわからなくて、怖いのよ」
「涙子……」
「"タリス"」
え、とグレイはタリスを見ると、彼女は微かに笑って言った。
「タリス・クレイア。これが今の私よ」
タリスは先程までの暗い表情を消し、どこか決意したような顔になるとそっと彼の手を離した。
「私は貴方とは行かないわ」
「涙子!?」
だからタリスだってば、と訂正を入れ、タリスは卵を包んだ布とアニスの縫いぐるみを持つと漸くいつもの笑みを浮かべた。
「今、貴方には貴方のやるべき事があって神託の盾(其処)に居るのでしょう? だったら私にも私のやるべき事がある。だから……」
それが終わったら、皆で帰りましょう。
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