A requiem to give to you
- 戦艦タルタロス(7/7) -


「これ、絶体絶命ってヤツか?」



笑いながらそう言うと当然目の前の者達の表情は怪訝そうに歪められる。



「何がおかしいの……?」



ティアが鋭い目をより細めて警戒する。それにグレイは肩を竦めて首を振った。



「いやいや、オレってさー。兵種的にこう堂々と戦場に出る事ってねーしよ。こうして直に殺気を感じンのってなかなかない訳よ」



そう、彼の任務は殆どが暗殺だ。勿論、それ以外で武器を取る事もあるが、それは大抵が雑魚相手の時だけだ。目の前にいる相手は封印術をかけたとは言えラルゴを倒した奴だ。そんな者と直接戦うなど、勝敗は目に見えている。

死への恐怖なのかも知れない。ゾッとする感覚が体中を巡る。だがその感覚が妙に斬新で、面白さを感じずには居られなかったのだ。



「随分と余裕ですね」



余裕か、と呟く。実際はそれ程余裕などないのだが、出来る限り相手に気付かれないように振る舞う。とにかくまずはラルゴを連れて彼らから離れなくては、と思考を巡らす。幸い、相手はこちらの譜業銃を警戒してか今より距離を詰めてくる様子は見られない。



(それなら………)



グレイは素早く譜業銃をジェイド達に向けた。すると彼らは防御の体制を取ろうとする。それにニヤリと笑うと……



「ロックブレイク」



譜術を放った。譜業銃の弾とは音素だ。譜業銃を媒介としてフォンスロットを開き、音素を溜める。そこから音素弾として撃つのだが、グレイは敢えてそれをせず、溜めた音素で術式を展開し譜術を放ったのだった。

不意を突かれジェイド達の体勢が崩れる。その隙にコートのポケットから小さな黒いボールのような物を取り出すと、それを思いっ切り床に叩きつけた。



「そンじゃ、またな」



床にぶつかった事でボールは破裂し、大量の煙が出てきた。



「これは!?」

「な、何なんだよ!?」



煙は三人の視界を奪い、ティアとルークは混乱する。それをジェイドは「落ち着きなさい」と宥め、素早く詠唱した。



「唸れ烈風、大気の刃よ! 切り刻め……タービュランス!!」



風の譜術で煙を一気に吹き飛ばす。しかしそこにグレイと、倒れていたラルゴの姿は既になくなっていた。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







「あ…………っぶねェー! マジで危なかったぜコンチクショー!」



煙に紛れながら何とかラルゴを連れてジェイド達から逃れたグレイは一先ず甲板へと来ていた。甲板にはマルクト兵や神託の盾の兵士、そして魔物の死体が入り混じってそこら中に倒れており、正直良い気分にはなれない。……が、既に死んでしまった者に気にかけている程グレイには時間もなく、急いでラルゴの傷口を見て応急措置を始めた。



「あンの死霊使いめ、本気で刺しやがって。急所に外れてたから良かったものの……もう少しズレてたらオッサン死ンでたじゃねーか」



そこまで言ってグレイは自分達が襲撃している側だという事を思い出し、自嘲した。



「って、そりゃ当たり前か。……まぁ、良いや」



それよりもアリエッタを探さなければと立ち上がる。軽く手当てしたとは言え、このままでは拙い。グレイには治癒術は扱えないのだ。その点アリエッタならば得意ではないらしいが、一応第七音譜術士だから治癒術は使える。

そう思って辺りを見渡していると、不意にこちらを見ていたらしい一人の少女と目が合った。



「お前……は……」



その少女には見覚えがあった。いや、寧ろあり過ぎるくらいだ。何故ならその少女はグレイがこの二年間ずっと探し続けていた者の一人で、この世界に来る直前までは一緒にいたのだから。

髪の色こそ変わってはいるものの、彼女は間違いなく……





















「涙子……?」



皆川 涙子。グレイ……陸也の恋人だった。












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『カルマ』より歌詞一部引用しました。
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