A requiem to give to you- 戦艦タルタロス(4/7) -
「貴女の正体についてです」
「正体、ねぇ」
「単刀直入に訊きます。……貴女は何者ですか?」
「……………身も蓋もないくらい本当にストレートに訊いてきたわねぇ」
「性格上、気の利いた言葉は持ち合わせていないものですから」
と、肩を竦められタリスは溜め息を吐きたい衝動に駆られたが、何とか堪えて「まぁ、良いけどねぇ」と呟いた。
「それを答える前に。何者か、と貴方は言いましたけど、それは何を持ってそう言う風に訊こうと思ったのか……教えて下さらない?」
「良いでしょう」
ジェイドは眼鏡のブリッジを上げながら頷くと、己の目を示した。
「私はこの目に"譜眼"と言う技術を施しています。それ故、様々な高等な譜術を使いこなす事が出来ます」
「……それで?」
「更に言うと、譜眼には音素の流れを視る力と、生物の音素を感じる力があります」
まぁ、これに対しては譜眼を施したからと言って誰でも出来るわけではないのですが。
そこまで言うとジェイドは一旦言葉を止め、もう一度眼鏡のブリッジを指で押し上げた。
「当然、この世に存在する生き物ならば性質はどうであれ、皆同様に音素を持っています。ですが貴女の場合、譜術は使えるようですが、貴女自身から音素を感じる事は出来ませんでした」
「成る程ねぇ」
「タリス」
先程までのふざけた様子を感じられない声で名前を呼ばれ、思わず素直にそちらを向いた。
「貴女は一体何者………いえ、
"何処"から来たのですか?」
その言葉にタリスは純粋に驚いていた。今までに彼のような音素の流れに敏い人物には何度か会った事はあるが、この様な聞き方をしてくる者はいなかった。
(何なの……この人、まるで)
まるで異世界の存在を知っているかのような、そんな気がした。しかし、だからと言って素直に答えてしまうのも考え物だった。この人の今までのやり方から信用出来ないのが一つ。もう一つは相手の考えている事がわからないと言う事。下手を言って自分達の世界を何かしらの悪影響を及ぼされるのは極力避けたかった。
タリスは答えを纏めると慎重に返した。
「それは言えません」
「……何故ですか?」
「なら、逆に訊くけれど。私が貴方にそれを言う事で、貴方に何か利になる事でもあるのかしら?」
それに今度はジェイドが驚く番だった。しかしそれはタリスの言葉に、と言うよりは少し違うような気がした。
「大佐さん?」
何故だか石になったように動かなくなった彼を呼んでみたが、ジェイドはまるでタリスなど目に入っていないかのように考え込んでしまった。
「私は………………で、何を……………?」
そう彼は呟いていたが、タリスはそれを聞き取る事が出来なかった。暫くその状態が続いたかと思うと、不意にジェイドは立ち上がった。
「すみません。少々頭を冷やしたいので、この話は保留にさせて下さい」
「……どうぞ」
先程と同じようにタリスがそう言って促すと、彼は来た時とは逆に早足で部屋を出ていった。それを見送ったタリスは肩を竦めた。
「ポーカーフェイス気取っているように見えて、案外感情のコントロールが下手なのねぇ………まぁ、」
でなきゃあんな目は出来ないもの、と小さく呟くとタリスは卵を撫でながらベッドに横たわった。
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