A requiem to give to you
- 食糧の村(4/5) -



「では仮に、奥様の部屋に泥棒が入り、いつか貴方がプレゼントした花をめちゃくちゃにされました。それを見て貴方はどう思う?」

「そりゃあ、何すんだって思うだろ」

「そうよね。ならそこに更に野次馬根性丸出しで来た見ず知らずの人に馬鹿にされてはどう? ムカつくと思わない?」

「当たり前だっつーの! んな事が母上の耳に入ってみろ、一発で寝込んじまう!」



最悪な事態を想定してしまったのだろう。ルークは心なしか青い顔で怒鳴ると、タリスも頷いた。



「そうでしょうねぇ。でも、さっきの人達はそう言う気持ちだったのよ」

「ぅ……」



それにティアも同意した。



「タリスの言う通りよ。ここはマルクトだけではなくてキムラスカ、ダアトにも食糧を流通している所だから、その品がなくなれば村は商売が出来なくなる。そうなれば村は存続できなくなるし、あなたも含めて世界中の人達が困る事になるわ。だから……」

「〜〜〜っ、わかった! わかったっつーの!」



俺が悪かったよ、と自分の否を認めたまでは良かった。しかし、次に続いた言葉は予想外だった。



「明日、そのチーグルってのを捕まえにいく」

「え!? いえ、ルークそう言う事じゃ」



普段の淡々とした口調から一転し、ティアは困惑さを隠さない少女らしい表情をする。恐らくこちらが彼女の素なのだろうと興味深そうに見るのもそこそこに、着々と話を纏めていくルークを振り返った。



「行くの?」

「おう!」

「だから待ってってば!!」



元気良く頷くルークにティアが大きな声で静止をかける。それに彼は煩わしそうに「なんだよ」と彼女を見ると、ティアは一つ息を吐いて口を開いた。



「あのね二人とも。聖獸チーグルと言うのは、ローレライ教団の象徴とも呼ばれている存在なのよ」

「だからと言って人様の食い物を勝手に取って良いってのかよ」

「そうじゃないわ。そうではなくて、さっきの人……イオン様はローレライ教団の導師よ。あの方がいるのなら、教団側が動く筈よ。だから私達……いえ、ルークやタリスが何かをしなくても然るべき対応がなされるわ」



だからここは大人しく帰りましょう、と言うティア。しかしルークは彼女の言葉の中に出てきた単語に驚愕していた。



「導師……イオン!? あいつが!?」

「ちょっと、その言い方はイオン様に失礼よ!」

「待てよ、それどころじゃねーよ!!」



酷く慌てている様子のルークにタリスは首を傾げた。



「どうしたのルーク?」

「あの導師イオンってやつ、誘拐されたって聞いたぜ! その捜索でヴァン師匠は暫くバチカルを離れるって聞いてたのに」

「誘拐……?」



何だかあまり聞こえの良くない単語にティアと二人でローズの家の方を振り返った。



「でも、無理矢理連れ回されているようには……」

「そうよねぇ。寧ろ……」

「あの!!」



?、と突然話し掛けてきた可愛らしい声にその方を見ると、そこには黒い髪をツインテールにした女の子がいた。その表情はどこか焦っているように見える。



「この辺にぽや〜っとした感じのちょっと変わった男の子をみませんでしたか!?」

「いや、見てねぇけど……」



歳は13、4ぐらいだろうか。随分と可愛らしい見た目だが、その背に付いている黄色い縫いぐるみは何だか異色を放っている。じっと見ていればいつか独りでに笑い出しそうだ。



「あら……?」



黙って少女を見ていたティアが何かに気付き、そっとルークに耳打ちした。


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