A requiem to give to you
- 食糧の村(3/5) -


「彼らは何を話しておられるのですか?」

「さぁねぇ?」



ニコニコと笑顔を絶やさないジェイドに同じくらいの笑みで返し、そして思い出したように名乗った。



「因みに私はタリス。そしてあそこの二人はルークとティアですわ」

「私達はケセドニアへと向かう途中でしたが、橋がなくなってしまった為に一度この村に来た次第です」



タリスが二人を紹介すると同時にティアがルークを押し飛ばして戻ってきた。そして出任せだが、何とか理由を見繕って説明をした。



「それに漆黒の翼は先程マルクトの軍艦がキムラスカの方へと追い詰めていました」

「でもまぁ、結局橋を爆破して逃げていったようだけれどねぇ」



お陰でこちらも橋を渡れなくて困っているのよ、と本当に困っているのか怪しげな声で宣うタリス。ローズはそれに気付かず、その内容に驚いてジェイドを見た。



「大佐、本当なんですか!?」

「成る程、あの時の辻馬車は貴方達でしたか。ローズ夫人、このお二方の仰る通り、漆黒の翼は今朝方に我々が追っていた途中にローテルロー橋を落としてキムラスカの方へと逃亡しました」



ですから、この人達は漆黒の翼ではありませんよ。と一国の大佐に保証までされてしまえば、村人達はそれ以上の文句を言う事はできなかった。そんな中、また新たな人物が現れた。



「これは、ただの食料泥棒ではないようですよ」

「イオン様……」



ジェイドがそう呼んだ横の長い若葉色の髪を持ち、白い法服を身に纏った少年はその手に持つ動物の毛のような物をローズに手渡した。



「これは……聖獸チーグルの毛じゃないかい!?」

「勝手ながら、宿屋の食料倉庫を調べさせて頂きました。そこに落ちていたので、間違いはないでしょう」

「そうでしたか……」



予想し得なかった犯人にローズは悲しげに眦を下げて言うと、次いでしどろもどろになっている村人達を睨んだ。



「ほら、アンタ達! この人に何か言う事があるんじゃないかい?」

「う……その、悪かったよ」

「すまねぇな」

「どうにも最近イライラしてたもんだから、ついよく見ずに……本当に悪かった」



と、次々と村人達はルークに頭を下げていく。それをルークは複雑な表情で見ていたが、ローズにこれで許してやってくれないかと申し訳なさそうに言われれば、彼も渋々と頷いたのだった。一先ずこれで、食料盗難事件は幕を降ろしたのだった。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







「ったく、イヤな目に遭ったぜ!」



あれからローズの家を後にした三人は、今日の寝る部屋を借りる為に宿屋へと向かっていた。その道中、ルークは先程の事を思い出して近くにあった小石を蹴り飛ばした。その様子を見ていたティアは、今日何度目になるかわからない溜め息を吐いた。



「そもそも、あなたが疑われるような事をするからよ。あんな言い方したら怒るのも当然だわ」

「なんだと!?」

「まぁ、ルーク。少し落ち着きましょう」



ティアの言葉にキレたルークをタリスが肩を叩きながら宥めた。



「買い物の仕方がわからなかったのは経験がないのだから仕方がないわ。でも、ティアの言う事も決して間違いではないのよ」

「だけどよ!」

「聞いて、ルーク」



更に文句を連ねようとするルークを落ち着かせるようにタリスはポンポンと数度肩を叩き、言葉を被せた。


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