A requiem to give to you
- 崩落への序曲(11/13) -



フィーナは新たな旋律を奏でていた。



「破邪の天光煌めく神々の宴……」



歌うフィーナを中心に、膨大な第六音素が集まる。



「何かヤバイのが来るっぽいよ」



レジウィーダがそう呟いた瞬間、三人の足元に譜陣が広がった。グレイはイオンを担ぎ右へ、レジウィーダは左へとそれぞれ跳んで離れた。

直後、譜陣から巨大な十字架が現れ、聖なる光を放った。十字架が消えた後には、大きな焼け跡だけが残った。



「ったく、反則だろ」



イオンを下ろしながらグレイがそれを見て呟いた。そのままフィーナを振り向くと、彼女の手にはいつの間にか杖が握られていた。その杖はいつかグレイが船の上で見た、まるで一角獣の角を思わせる形をしており、微かに第六音素を放出していた。

その音素に気付いたレジウィーダはハッとして彼女の持つ杖を凝視した。



「あの杖……「翔舞裂月華!!」!?」



月線を描くように振り上げられた薙刀にレジウィーダは思考を中断して杖で受け止めた……が、力の差で押し負けて吹き飛んでしまった。

それにグレイが駆けつけようとしたが、フィーナの譜術に寄って遮られた。



「あなたの相手は私ですよ」

「チッ、テメェ……何故そんなにフィリアムにあいつを殺させようとする!?」

「欲しいからです」



フィーナは薄く微笑んで言った。



「人が武器を持つには理由がある。それは守りたいモノや欲しいモノを手に入れる為。私はレジウィーダ……いえ、《時空(とき)の魔術士》の力が欲しい」

「何……?」



彼女の言葉にグレイはどういう事だと睨む。



「だから私は……《時空の魔術士》の半分であるフィリアムと言う"武器"を使い、残りの半分を手に入れるのです!」



そう言った彼女の目は野心に溢れ、今までの穏やかさな雰囲気の欠片などなくなっていた。



「二つの器に入ったモノを一つに戻すには、一つだけ器を壊し、もう一つにしか入れないようにするしかありません」



だからフィリアムでなければならないのです。それにグレイは怒りで拳を力強く握り締めた。



「それって……結局フィリアムを利用してるだけじゃねーか!!」

「人が事を起こす為には何かを使う他ありません。事が大きければ多いほど、その使う何かの重さも増すのは当然ですよ」



フィーナは事もなげにそう答えた。グレイはそれに舌を打つしかなかった。

一方で、レジウィーダは空中から下級術を連発した。



「ファイアボール! アクアエッジ! リミテッド! ネガティブゲイト!!」



だがフィリアムはそれを悉く躱し、飛び上がって薙刀を振るった。



「はぁっ!!」

「ウインドカッター!」

「効くか! 魔神剣!!」



風の刃を薙ぎ払い、気の刃で返した。レジウィーダはそれを杖で弾くだけで精一杯だった。そのまま着地してフィリアムを見た。



「ちっくしょー…。早いし強いし倒れないしー………最悪だな」



ふぅ、と重い息を吐いて汗を拭う。フィリアムの攻撃を受ける度に感じる。彼の自分に対する感情が。そして、それによって上げられる自分の中の"宙"の悲鳴が……。



「もう……元には戻れないのか?」



レジウィーダの呟きは周りの音に掻き消された。



「ヴァン…」



イオンはいつの間にかルークの側にいたヴァンへと歩み寄った。



「フィーナを止めさせて下さい。例えレジウィーダとフィリアムの間にどんな事情があろうとこんな……こんな姉弟同士で戦うなど悲しすぎます」



本当に悲しそうに目尻を下げて言われた言葉にルークは何とも言えない顔をした。しかしヴァンは首を振ったのだった。



「私に彼女を止める事は出来ません」

「ヴァン、ですが!」

「それに今二人を止めてしまえば、レジウィーダが瘴気の中和を邪魔しに来るでしょう」



そう言ってイオンの言葉を遮り、ヴァンはセフィロトツリーを包むように上下する光の環───パッセージリングへと近付き、ルークを向いた。



「ルーク、こちらに来なさい」

「は、はい!」



ルークは慌ててヴァンの元へ走り寄り、セフィロトツリーを覆う炎を見た。



「でも師匠。これがあったら超振動が使えないんじゃないですか?」



それにヴァンは「大丈夫だ」と言って安心させるように彼の頭を撫で、障壁に触れるか触れないかの距離まで近付いた。

そしてニヤリと含みのある笑みを浮かべ、ゆっくりと息を吸った。



「静かなる終焉へと導く旋律……───」



夢の中で自分の被験者が幸せそうに笑っていた。

彼女はいつも笑っている。彼女が笑っていると、自然に周りも明るくなる。

光だから。彼女は……誰かに《心と触れ合う暖かさ》を教えてくれる光なのだから。

彼女にそんな気はないのだろう。否、そもそも自分が誰かの為の光になっていると言う自覚すらないと思う。

それでも、彼女と言う存在だけでその誰か達が幸せになれるのなら、間違いなく彼女は光なんだ。



(でも、俺はそれと同時に彼女から人間の《醜い心の冷たさ》と言う闇も教わった)



フィリアムは彼女の片割れ。劣化複写人間。それだけで意味の理解する者達は彼を否定する。

全員じゃないのもわかってる。だけど、その僅かな否定しない人達にすがる事はできなかった。



……彼女がいるから。彼女はいつもその人達の中心で笑っている。"あの時"……"彼女"の兄が死んだ時、"彼女"にしたのと同じ様に俺に手を伸ばしてくれたあの人も隣にいる。

夢《過去》でも、そして現実《今》も……あの人はフィリアムが唯一光と感じた人。だけど彼女がいるだけで、光は彼女に奪われる。……否、もしかしたら最初から無いのかも知れない。




(彼女が"宙"で有る限り、俺は彼女の影だから……)



壊さない限り、俺が光を得る事はないのだ。



「だから、絶対に壊す……殺す………消す!!」



全てが消えたら、俺は俺と言う光になれるのだろうか……。何も遮る物がなくなれば、ずっと俺を見てくれるのだろうか……。



そうなれば良い。なって欲しい。いや、なりたい。

消したい。邪魔なモノは全て
















イラナイ!!



「……!!」



斬りかかって来るフィリアムの攻撃を躱していたレジウィーダは異変を感じた。直後、彼女を含めその場にいた全員の耳に一つの旋律が流れてきた。



レィ………ゥ…ク…ア……ゥエ…レ……ィ



所々聞き取れない部分があったが、それでもレジウィーダ達にはどこか聞き覚えのある旋律だった。



「この譜歌は………うわぁっ!?」



バチンッと体の奥で何が弾ける感覚がした。まるで電気ショックを与えられたかのように痺れ、体が動かなくなった。

それに気付いたグレイが叫んだ。



「おい! どうした!?」



レジウィーダはそれに答えられなかった。何が起きているのかわからず、異変の出所であるセフィロトツリーを見上げた。



(一体何が……!?)



先程の譜歌のせいか、セフィロトツリーを護っていた能力が解かれていた。



(……まさか!)



ツリーを覆っていた炎は消え、パッセージリングの前にはヴァンと、手を伸ばして集中するルークが目に入った。



「よし、そのまま集中しろ」

「はい!」



ルークはゆっくりと第七音素を収束し始めた。それを感じたレジウィーダはまだ完全に回復してない身体を無理矢理立ち上がらせ、走り出した。



「ダメだルーク!!」

「行かせるか!」



フィリアムが彼女を行かせまいと斬りかかる。



「弧月閃!!」

「っ、ごめんフィリアム!!」



レジウィーダは微かに切った頬に顔を顰め、そのまま謝りながらも彼の腹に思い切り蹴りを入れて吹っ飛ばした。


「グ、ハッ……!?」

「! 何をしているのです!!」



そう言ってフィーナはフィリアムに駆け寄ろうとしたが、今度は逆にグレイがそれを防いだ。



「させねーよ!!」



グレイはフィーナに何かを投げた。それは彼女の足元で小さく爆発し、忽ち彼女を白い煙が包み込んだ。フィーナは僅かに煙を吸い、急に体が動かなくなった。



「! 体が……!?」

「フンッ、オレ様特製痺れ爆弾だ」



ざまーみやがれ、と鼻で笑い飛ばしてグレイはレジウィーダを向いた。



(アイツが力を使う前に……!!)



既に新しくエネルギーを集め始めているレジウィーダに向かいグレイも駆け出した。



「フィリアム! 彼女達を止めなさい!!」



煙の中からフィーナの声が飛び、フィリアムも行く。三人が駆け出す中、静かにヴァンの声が響いた。



「さあ、力を解放するのだ……





















《愚かなレプリカルーク》」

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