A requiem to give to you
- 崩落への序曲(7/13) -



「それ……本気で言ってるのか?」

「ヴァンに加担してる時点で、本気だと思う?」

「なら、何で!」



何でそんなことを言うんだ! そんな叫びすらも目の前の存在は嘲笑う。



「俺は預言なんてどうでも良いんだよ。信じたい奴が好きなように信じていれば良い。……でも、ここは壊さないと駄目」



再びフィリアムの周りに音素が集まっていく。



「じゃないと、合法的にアンタを消せないだろ?」



そう囁くように言った瞬間。レジウィーダの足元に第四音素の譜陣が現れた。



「スプレッド!」



吹き出すような暴力的な水の術をレジウィーダは前に飛んで避ける。それをフィリアムが薙刀で迎え撃つのを更に前に転がる事で躱し、彼の背後を取った。



「こんの………───バカ弟っ!!!」

「!!?」



背後に来た勢いのままにレジウィーダは回し蹴りを繰り出す。反撃をしてこないと思っていたフィリアムは思わずそれを喰らい前に転びかけたが、直ぐに体制を整えて薙刀を構えた……が、



「やったなこの野郎!!」



いつの間にか復活したヒースが大剣を振りながらフィリアムに斬りかかって来た事でその場から下がる事を余儀なくされた。

再びレジウィーダの前に出て剣を構えたヒースは背後には塞がれた入り口を一瞥し、背中越しにレジウィーダへ叫んだ。



「先に行け! そしてヴァンとルークを止めろ!」

「ヒースは!?」

「僕は……やられた分をやり返したら追いかける!!」



そう言って地を蹴り、再びフィリアムに斬りかかる。それにフィリアムも術で対抗する。



「イラプション!!」



放たれる中級術を躱しながら、ヒースは再度叫んだ。



「早く!!!」

「……わかった!」



レジウィーダは頷き、入り口に向かって走り出す。そして直ぐにエネルギーを集めて術を放つ。



「切り刻め風刃───エアスラスト!!」



鋭い風の刃が入り口を塞ぐ岩を切り刻む。漸く通れるようになったそこをレジウィーダは素早く抜けるように走って行った。



「クソッ……待て!!」

「お前の相手は僕なんだよ!」



舌を打ってフィリアムがレジウィーダを追おうとするのをヒースが阻止する。



「邪魔!!」



フィリアムが薙刀を振り襲い掛かるが、ヒースの大剣がそれをいなす。武器の持つ威力もあるが、元々の腕力の差が出ているのか、フィリアムの一撃をヒースは傷を負う事なく全て弾いた。

思う通りに攻撃が入らず、次第にフィリアムは苛々したように歯を強く噛んだ。




「何で……邪魔ばかりするんだ!!」

「大事な仲間だからだ! 目の前で殺されそうになってるのを黙って見ているわけないだろ!」



ヒースはフィリアムから間合いを取りながらそう返す。その瞬間、フィリアムの動きがピタリと止まった。



「仲間………」

「そうだよ。あの子も大事な幼馴染みの一人だ。必ず連れて帰らなきゃならないんだ」

「………う……って……─────っ!」

「何?」



途端に、空気が変わる。突然俯き、何かを呟いたフィリアムにヒースは構えを解かないまま訝し気に聞く。するとバッと勢いよく顔を上げたフィリアムは怒りと悲しみが綯い交ぜなった表情で叫んだ。



「そうやって、お前達はいつだって自分達の事だけだ!!」

「!?」



急速に、けれど先程までとは比べ物にならないくらい膨大なエネルギーがこの場に集まっていく。音素とも違う、このエネルギーは……幼馴染みの扱うソレと同じ物だと気が付いた。



「真実から逃げて……ガラクタになった世界なんてどうでも良いんだ。自分達の《今》さえ良ければ、《過去》なんて……ゴミも当然なんだろ!?」

「な、なにを言って……」

「うるさい! 宙なんか…………お前達なんか……





















全部全部消えてなくなっちまえっ!!」



フィリアムが叫んだ瞬間、その場に収束された様々な属性のエネルギーがぶつかり合い………そして勢いよく弾けた。

それは劈くような甲高い音だったか、誰かの悲鳴のような声だったか。表現のしようのない、耳を裂くような様々な音を響かせながらこの場を震わせ、最後には大きな爆発を起こした。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







そこは何とも幻想的な場所だった。螺旋状の坂の下から何十メートルもある天井へと伸びている、大きな音叉のような物。そこから出ているあの光は記憶粒子《セルパーティクル》だろう。

レジウィーダは先に行ったルーク達を追いかける為に走った。




(何だろう……)



彼らに近付けば近付くほど、わからない恐怖感が募ってゆく。否、わからない訳じゃない。心のどこかで、わかる事を否定しているような感覚だ。

嫌な汗が滲む。それを拭い、右手の甲にある宝石に触れた。

ある世界の勇者がくれた物。どう言う訳か、着けていると力が漲るのだ。



「力を貸してくれよ……」



そっと宝石を一撫でし、すでに最下部まで降りていた三人に向かって飛び降りた。とても人間が飛び降りれる高さではないが、これもこの宝石のお陰でなせるのだ。



「待て!!」



音叉……セフィロトツリーの前に着地して構えた。それにルークと後ろで控えているイオン、ミュウは驚き、ヴァンはフッと笑みを浮かべた。



「やはり来たか」

「言っただろ。絶対に止めるって。……だから、やらせない!」



いつでもヴァンに技が放てるように右手に力を込めると、ルークが彼の前に出た。



「レジウィーダ、何やってんだよ! 俺達はただ瘴気を中和するだけなんだ!!」



だから邪魔をするな、と怒鳴るルーク。そんな彼にレジウィーダは構えを解かぬまま向いた。



「ただ超振動を放っただけじゃ、瘴気は中和出来ないよ」

「な、何言って……」

「知ってる? 瘴気ってのは今から2000年以上前からこの星にあるんだ。ユリアが生きている時代から、ね」



レジウィーダはルークの言葉を遮って言った。



「ローレライと契約したとされるユリアが生きている時からあるんだ。なら、ローレライの力でとっくに中和出来てる筈だろ?」



なのにこの時代になっても存在している、と言う事は無理なのだ。ローレライの力と言うのが超振動なら、試していない筈がない。そう言うとヴァンが面白そうレジウィーダを見た。



「随分と博学のようだな。ダアトの教会にある書物にはそんな事までは書かれていなかった筈だが?」

「聞いたんだ。アンタもよーく知ってる、























《夢想を奏でる者》からね」

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