A requiem to give to you
- 崩落への序曲(6/13) -



かなり奥まで進んできたと思った頃、避難の遅れた数人の坑夫が倒れているのを見つけた。ナタリア、アニス、ガイは慌てて駆け寄った。



「今助けますわ!」



そう言いながらヒールをかけるが、やはり殆ど役には立たない。それでも彼女達は術をかけ、薬を使った。

ヒースは怪訝そうに辺りを見渡した。



「なぁ、何かおかしくないか?」

「何がだよ?」



早くヴァンに会いたいと言う気持ちで頭一杯なルークは苛々したように返した。ジェイドは今更と割り切っているのか、それを無視して同じ様に薄暗い坑道を見渡す。



「……確かに。先遣隊の姿がありませんね」

「何か、あったんだろうね」



そう言ってレジウィーダが天井を睨むように見上げた時、上から微かに騒音が聞こえてきた。それにジェイドは踵を返した。



「ちょっと見てきます。タリス、一緒に来て下さい」

「わかったわ」



一つ返事で頷いてから、タリスはヒースとレジウィーダを見た。それだけで言いたい事がわかった二人も頷いた。



「大丈夫だよ」

「……気を付けろよ」

「そっちもね。───行きましょう」



そう言ってタリスは仔ライガを連れてジェイドと共に来た道を戻っていった。暫く二人はそれを見送っていたが、ふとヒースが口を開いた。



「なぁ、レジウィーダ」

「どしたよ?」



ヒースが何を言いたいのかわかったレジウィーダはほぼ棒読みで返した。



「早速、大丈夫じゃなさそうだ」

「……みたいだね」



そう言って二人はゆっくりと振り返ると、そこに自分達が今見てなければいけない人物の姿はなかった。



「イオン君もいないし………まずくね?」

「まずいな」

「どーしようか?」



そう問うとヒースは一息吐くと、



「取り敢えず…………………






























急いで探すに決まってるだろ!!!!」



ダッと慌てて駆け出した。それにレジウィーダは「ですよねー!」と泣き笑い状態で続いた。



「戻ってはいない筈だから、やっぱ奥だよね!」

「だろうな」



最新部に向けて突然走り出した二人にアニス達は不思議そうに見ていたが、それどころではなかった。



「アニスってばまたイオン君の側にいないでもーっ!」

「言ってる場合か。それについては後だ」

「わーかってるって! それよりも能力の発動準備は?」



ヒースは「いつでも!」と頷いた。



「そっちは?」



それにレジウィーダは「バッチリ!」とピースを返した。



「チャンスは一回。ルークが超振動を使った瞬間しかないからね!」



ヒースは力強く頷いた。



「絶対に成功させる!」



そうして走りながら二人が行動の奥へと走り続けていると、目の前にはザオ遺跡にもあった奇妙な文様の描かれた、扉の前に三つの人影を見つけた。



「いた! ルーク達だ!」



レジウィーダが一気にスピードを上げた。

切れそうになる息を必死に耐えながらヒースも駆け出そうとした。が、その瞬間頭に声が響いた。



───それ以上行くんじゃねぇっ!!!

(なっ…アッシュか?)



驚いたように殴り付けるような怒声の主の名を呼ぶと、相手も驚く気配が返ってきた。



───お前!?



能力は使っていない筈なのに、何故彼と回線が繋がったのだろうか……。

そこでヒースはイオンによって開かれた扉から感じる膨大な量の第七音素に気が付いた。



(まさかあれのせいか……?)

───…っ、ゴチャゴチャ言ってねぇで早くあいつを止めろ!!

(わかってる!!)



そう言って再び視線を上げると、既にルーク達はいなかった。どうやら既に奥へと入ったらしい。前を走るレジウィーダが顔だけ振り返って叫ぶ。



「ヒース! 急げ!」

「わかってる、………!? 止まれ!!」

「!!?」



扉の目の前に第二音素の譜陣が浮かんだのが見え、すかさず奥へと入ろうとしたレジウィーダに静止をかけた。同時に彼女も音素の流れを感じたらしく、直ぐ様扉から離れた。
その直後、扉の前にはその行く手を塞ぐかのように巨大な、鋭利の岩が現れた。



「"ロックブレイク"か!?」

「レジウィーダ、上!!」



ヒースの声に慌てて上を見上げると、一振りの刃が下ろされるところだった。瞬時に杖を取り出すと、間一髪のところでレジウィーダはそれを止めた。



「あー……止めちゃうんだ」

「お前……フィリアム!?」



どこか残念そうな声を漏らすその人物、フィリアムに驚愕に目を見開くヒース。レジウィーダは何となく予測が出来ていたのか、杖で薙刀を振り払うとバックステップで下がった。



「……ちょっと来るのが早くない?」



とは言ったものの、彼も六神将補佐で、ヴァン直属の部下でもある。デオ峠でリグレットがいた事もあり、こうなる可能性は十分にあり得ていた。

フィリアムは無言で薙刀を構え直すと地を蹴って再度レジウィーダへと斬りかかった。



「させるか!」



ヒースが素早く彼女の前に踊り出て、その大剣で薙刀を受け止めた。



「ヒース! ……フィリアム、そこを退いて!」



レジウィーダが叫ぶように声を上げるが、フィリアムは聞く耳を持つ気はないようだった。それどころか刃を交えているその場で急速に音素を収束させ、目の前のヒースへと術を放ってきた。



「フレイムバースト!」

「なっ!?」



詠唱を破棄して威力は低いが、それでも近距離の相手を吹き飛ばすには十分だった。直撃を喰らったヒースはレジウィーダの後ろまで飛ばされ、地面に叩きつけられた。



「ヒース………っ!?」



彼に駆け付けようとするが、フィリアムの攻撃がそれを許さず目の前に迫る薙刀を避ける。



「フィリアムお願いっ、時間がないんだ! そこを退いてくれ!!」

「………なんで?」



首を傾げながら返ってきたのはそんな疑問だった。そして彼は嗤う。



「良いじゃん。預言通りになるんだよ? 皆のだーいすきな預言の通りになるなんて本望じゃん」

「フィリアム……?」



今まで預言の事を気にした事もない者の発言とは思えないソレにレジウィーダは驚愕の表情を浮かべる。



「聖なる焔が街と共に消えて、戦争が起きて、キムラスカが繁栄する。向こうの思惑通りじゃん」



ソレの何がいけないんだ?

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